平成30年度は、前年度に引き続き、モンテカルロ積分における重点的サンプリングに注目し、深層学習を用いて重点的サンプリングを行なう手法の確立を進めた。重点的サンプリングでは、与えられた分布に従いサンプルを生成し、なおかつその確率密度を厳密に計算する必要がある。従来の手法では、そのような用途に使える確率密度分布は限られており、任意の分布を扱うことは難しかった。
そこで、任意の分布をモデル化するために、累積密度分布をニューラルネットワークを用いてモデル化する方法を開発し、また、サンプルを生成するようなネットワークモデルを自動的に導く方法も開発した。さらに、サンプルを生成する際に、ハイパーネットワークを用いて、条件付確率密度分布からもサンプリングできるようなネットワークの構築方法も開発した。これらの方法を用いて、半透明な物体における光の散乱による照度分布を深層学習でモデル化する実験を行った。この場合の照度分布は、解析的にモデル化することが困難であることが知られており、本研究では、深層学習と数値シミュレーションによって、データ駆動型のモデル化を行った。研究成果は論文としてまとめ、投稿予定である。
また、関連する成果として、微分値を計算可能な光伝搬シミュレーションについても研究を進めた。ニューラルネットワークの学習に一般に使われる誤差逆伝播法では、あるパラメータに対しての微分が必要となる。例えば、光源の位置をパラメータとしたとき、光源の位置を変えたときに、画像がどのように変化するか、という問いが微分の計算に関わるものである。これが可能になれば、例えば、画像から光源がどこにあるか推測するような問題を解くことが可能となる。関連研究として2018年にLiらが提案した手法があるが、本研究ではこの手法の制約を取り除き、さらに高速に微分値を計算可能にする手法を開発中である。
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