研究課題/領域番号 |
17K19961
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
萩谷 昌己 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (30156252)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | DNAコンピュータ / 分子ロボット / 群ロボット / 自己組織化 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子ロボットの群れ(群分子ロボット)を数理モデルとして定式化し、群れの中で経路や全域木などの各種のパターンを形成することによって学習問題を解くアルゴリズムを考案することである。本研究では、経路形成によって学習(教師あり学習および強化学習)を行うアルゴリズムを考案し、その性能や特徴を考察することを目指す。さらに、定式化した数理モデルを、実際に分子ロボットによって実装する方法について考察する。 平成29年度は、研究実施計画にあるように、事前研究で考案した分散アルゴリズムを、分子ロボットによって実装が可能になるように単純化することに注力した。事前研究で考案した分散アルゴリズムでは、入力データと教師データの複数個の対が入れ替わり与えられるようになっていたが、複数の対をベクトル化して与えることとした。また、辺の有効性を1ビットのメモリを持つプロセスによって管理することとした。以上の変更をもとに定式化した分散アルゴリズムは極めて見通しのよいものとなり、scheduler-luckによる安定性の証明も簡潔なものとなった。 分散アルゴリズムの単純化と並行して、ゲルオートマトンによる実装方法についても検討を進めた。平成30年度の研究実施計画では、分散アルゴリズムに関する研究と並行して、分子ロボットの実装方法に関する研究、特にスライム型ロボット(ゲルのカプセル)を発展させることにより、状態変数や各種の演算を実装する方法についての検討を行うこととしていた。この計画を前倒しし、さらに普遍化した研究として、ゲルオートマトンによるポピュレーションプロトコルのシミュレーション方法の考案を行った。ゲルオートマトンはスライム型ロボットを抽象化した計算モデルであり、ポピュレーションプロトコルは分散アルゴリズムの典型的なモデルであり、上述のシミュレーションは、分子ロボットによる実装への第一歩となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分散アルゴリズムの単純化については、さらなる工夫が可能と考えられる。一方、平成30年度の計画の一部を前倒ししている。両者を合わせ、おおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
分散アルゴリズムの単純化を図るとともに、ゲルオートマトンによる実装方法の研究をさらに進める。ポピュレーションプロトコルは分散アルゴリズムの計算モデルであるが、抽象度は高い。したがって、ゲルオートマトンによってポピュレーションプロトコルがシミュレートできたとしても、その効率はよくないと考えられる。より直接的に、本研究の者も含めて、分散アルゴリズムをゲルオートマトンによって実現する方法を探求する。 その上で、ゲルオートマトンの物理化学的な実装について検討を進める。現在のゲルオートマトンはゲル壁に仕切られた反応拡散系を抽象化した計算モデルであり、分散アルゴリズムの状態変数は、特定の分子種の濃度として実装されることを想定している。研究実施計画にも書かれているように、分子ロボットの各種の物理化学的な性質(たとえば、電気伝導率、拡散係数、流路の太さなど)によって状態変数を実装することが考えられる。 以上の研究に加えて、研究実施計画にあるように、来年度以降、教師あり学習とともに強化学習のための分散アルゴリズムの考案を進める
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次年度使用額が生じた理由 |
考案した分散アルゴリズムやゲルオートマトンのシミュレーションを行うコンピュータを 購入することを計画していたが、初期段階では既存設備で十分であった。 次年度は、大規模なシミュレーションを行うために、コンピュータを新たに購入することを計画している。また、プログラム作成等のための謝金も支出する計画である。
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