研究課題/領域番号 |
17K19979
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
向川 康博 奈良先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 教授 (60294435)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | デジタルファブリケーション / プロジェクタ・カメラシステム / 半透明感 / 質感再現 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,光学解析手法によって計測された材質特性をデジタルファブリケーション技術を用いて物理的に再現することである.材質が持つ光の反射・散乱・吸収・透過特性を材質特性として,外観の計測と再現を行う.初年度は,材質特性のモデル化および計測に取り組んだ. モデル化では,物体の層構造に着目した.人の肌や植物の葉などの自然物は層構造であることが多い.また,3DプリンタやUVプリンタなどのデジタルファブリケーション機器は層構造による加工を行う.したがって,層構造によるモデル化は計測と出力の両方にとって妥当である.材質特性の計測は各要因を個別に表現せず,空間的な関数によって一括して表現する.ある一層に着目し,その層に一点の光が入射することを考えると,層の表面・裏面のそれぞれにおいて光が空間的に広がる.それらを表面・裏面の点像分布関数として表現し,クベルカの層理論によって多層構造をモデル化した.また,プロジェクタ・カメラシステムを構築し,パターン照明投影法によって層構造物体の点像分布関数を計測した. さらに,出力システムについての検討を開始した.UVプリンタはUV硬化インクを用いることによって様々な材質および立体物にインクジェット印刷できる機器である.半透明材質上にUV印刷すると,材質の半透明感が変化する.半透明材料の種類とUV印刷のパラメータの組合せに対する半透明感の関係を明らかにするため,少数のサンプル計測と多層構造モデルを用いてルックアップテーブルを構築した.また,ルックアップテーブルを逆引きすることで所望の半透明感をUV印刷によって再現できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り,初年度は主に,材質特性のモデル化および計測について取り組んだ.対象材質の反射・散乱・吸収・透過特性を同時に計測するため,点像分布関数という形で一括して計測するアプローチをとった.デジタルファブリケーション機器によって加工・造形することが目的であるため,個別の特性を計測する必要はなく,全体としての光学特性が再現できれば良い.表面粗さを考慮できていない点と計測系の移動についてまだ課題はあるが,一括した光学特性の計測は実現できた.また,次年度以降の目標である出力についても検討することができ,順調な進捗であると考えている. 一方で,当初計画していた3Dプリンタ用材料の混合が実際には容易ではないことが判明した.低価格帯のほとんどを占める熱熔解積層方式の場合,フィラメント材質の混合比率を空間的に変えることが難しく,一様な材質特性の再現しかできない.インクジェット方式の場合,混合比率を空間的に変えられる機種もあるが,価格は数千万円で容易に購入できない.そこで,インクジェット方式機種を持つ業者に外注する形で研究を進めている.ただし,新たにUVプリンタによる質感制御の可能性を見いだし,実装および評価ができたため,プロジェクトの目的に対する進捗はおおむね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は計画通り,材質特性の計測に加え,材質特性と材料合成の関係性の明確化に取り組む.材質特性の計測では,特に表面粗さを含めた反射特性に着目する.UVプリンタによる半透明感再現の結果として,反射特性の重要性を再認識した.偏光や分光などの光学技術を応用し,デジタルファブリケーションに向いた新しい反射特性計測手法を検討する.また,現状,光学特性の角度依存性を考慮していないため,角度依存性も含めて計測できるシステムを考案する. 材料の合成について,すでに述べた通り,外注による3D印刷を予定している.すでに一部の混合材料は印刷済みで,各材質単体と混合材質の関係性について調査を進めている.今後は,それらの混合材質を層構造にした場合やボクセル構造にした場合のマクロな材質特性についてモデル化を行う.反射特性の再現はUVプリンタを用いることを検討している.UVプリンタは透明インクを印刷でき,光沢感のある表現が可能であるため,幅広い反射特性の表現に利用できる.最終的に,様々なデジタルファブリケーション機器を用いた場合にどのような材質特性が表現可能であるかを示す範囲を明らかにする.
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