研究実績の概要 |
分散計算論は,小さな計算(局所計算)を統合して全体を計算するための理論である.分散計算において,環境の変化(うごき)は本来回避して制御すべき対象であるが,本課題では,逆に「うごき」を計算に積極的に取り込み,安心(計算頑強性の高い)・便利(開発・計算効率の良い)な分散アルゴリズム設計の理論の構築に取り組んだ. 「うごき」による計算の原理究明を動機として,古典的な計算可能性理論との類比による「うごき」の計算可能性に取り組み,有視界無記憶ロボットによる中点発見問題の可解性に関する新しい課題に取り組み成果を得た.この問題は有視界無記憶ロボットが境界領域の一部しか把握できない状況で,目的の地点を見つけることができるか否かを問う.有視界自律分散ロボット群による計算可能性は,無限の視界の場合と比べて未解決の問題が多く,困難性の原因が良くわかっていない.この困難性の原因究明を動機とし,線分上で1台のロボットが最近端点までの距離を測りながら中点を探す問題にまで単純化し,この状況での計算可能性について,カントール実数の補集合のような非可算無限の場合の可解性を示した. 新たな展開としては,ネットワークがうごく状況でのランダムウォークに関する新たな解析技術を開発し,その成果をSODA 2021で発表した.現実のネットワークは時々刻々と変化するのに対し,従来研究は多くが静的ネットワークを対象としてきた.動的ネットワーク上のランダムウォークは近年注目を集める課題であるが,接続関係が変化するのみで,頂点集合の変化を扱うことはできなかった.本研究は,頂点が増加するネットワーク上のランダムウォークの解析という,新たな研究分野を開拓した. このほか,2次元格子上で変形移動するモジュールロボット群の領域探索問題に関する成果などを得ている.
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