研究課題/領域番号 |
17K19984
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 弘士 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (80341410)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | サイバーセキュリティ / 無線通信 / 組込みシステム |
研究実績の概要 |
平成 29 年度は、無線受信信号強度や無線到達時間といった電波伝搬特性を用いた攻撃可能空間を定義するための研究開発を推進した。具体的には、アンテナの指向性を考慮しない場合を想定し、攻撃可能空間モデリングにより、3 種の電波伝搬特性(受信信号強度、信号到来時刻差、信号到来方向)のそれぞれに基づく認証における攻撃可能空間を明らかにするとともに、詳細な解析を行った。受信信号 強度を用いた認証では、1) 2 つの受信機を用いることで攻撃可能空間を球面に限定できること、2) 2 つの受信機の受信信号強度の比に対して一定割合のノイズが混入する場合は、受信機間の距離が近く想定するノイズが大きいほど攻撃可能空間が大きくなること、3) 3 つ 以上の受信機を用いることで攻撃可能空間をより局所化できること、が明らかになった。また、信号到来時刻差を用いた認証では、1) 2 つの受信機を用いることで攻撃可能空間を二葉双曲面に限定できること、2) 2 つの受信機の信号到来時刻差対して一定量のノイズが混入する場合には、想定するノイズが大きいほど攻撃可能空間の幅が広がること、3) 4 つ以上の受信機を用 いることで攻撃可能空間を有限空間に限定できること、を示した。さらに、信号到来方向を用いた認証では、1) 1 つの受信機を用いることで攻撃可能空間を半直線に限定できること、2) 1 つの受信機の信号到来方向に対して一定量のノイズが混入する場合には、想定するノイズ が大きいほど攻撃可能空間の幅が広がること、3) 2 つ以上の受信機を用いることで攻撃可能空間を有限空間に限定できること、を確認した。加えて、実際の無線送受信機を用いて攻撃可能空間モデルの妥当性を確認するための実証実験を行い、提案する攻撃可能空間の妥当性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、提案する攻撃可能空間の概念を実現できる見通しを立てることができた。特に、様々な電波伝搬特性に着目し、それらの利点と欠点を整理し、各モデルを導出できた点は今後の研究を進める上で基盤となる重要な成果である。また、障害物の少ないある程度理想的な環境ではあるものの、無線通信が可能な実機を用いた実験評価環境を構築し、かつ、基礎実験を行うことでモデルの妥当性を確認できた。加えて、現実に存在するアンテナの指向性、および、実環境において受信信号強度に影響をおよぼすノイズの分布を反映可能な汎用攻撃可能空間モデルの導出も試みており、比較的良好な結果を得ている。これは、使用するアンテナやノイズの種類に依存しない汎用的なものである。これらの成果より、おおむね順調に進展していると判断した。なお、本研究の成果により、コンピュータシステム研究会優秀若手デモ/ポスター賞、xSIG Outstanding B4 Student Award、xSIG Outstanding M2 Student Award、2017 Excellent Student Award of The IEEE Fukuoka Section、を受賞している。
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今後の研究の推進方策 |
より現実的な状況を想定し、攻撃可能空間モデルの拡張を行う。特に、平成29年度の後半に実施したアンテナ指向性とノイズの考慮は実用化に向けた極めて重要なステップとなる。そして、これによって得られた攻撃可能空間モデルを用いた詳細な解析を行い、攻撃可能となるアンテナ設置自由度を定量的に評価する。また、平成 29 年度は個別に評価した 3 種の電波伝搬特性(受信信号強度、信号到来時刻差、信号到来方向)に関して、これらの組合わせ方式の検討も実施する。そして、最終的には最も適切な電波伝搬特性利用法を定め、物理現象を用いたデバイス認証技術として確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成 29 年度に予定していた海外出張はプログラムの関係上とりやめとし、平成 30 年に開催される会議への出席へと変更した。また、設備費として計上した PC サーバに関しては、既存システムでの実験が可能であることが判明したため、平成 30 年度に新モデルを購入することで評価実験を加速することとした。
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