前年度構築した攻撃可能空間モデルの拡張を行った。特に、アンテナ指向性とノイズの考慮は実用化に向け極めて重要なステップであり、これらを反映した。また、得られた攻撃可能空間モデルを用いた詳細な解析を行い、攻撃可能となるアンテナ設置自由度を定量的に評価した。具体的には、実際の通信環境において生じるノイズをモデル化した電波伝搬シミュレータを整備し、システム外部からの攻撃成功確率の評価環境を構築した。これにより、システム設計者は、無線通信デバイスをどのように配置すれば外部からの攻撃を防げるかを知ることができる。また、プロセッサシミュレータを用いて既存の暗号手法と提案手法の実行にかかる時間およびエネルギーを比較し、従来の MAC 手法と提案手法の実行コストの比較を行った結果、提案手法は、デバイス認証の実行時間を約 1/8 倍に短縮、消費エネルギーを約 1/2 倍に低減可能であることを示した。さらに、従来は個別評価に留まっていた 3 種の電波伝搬特性(受信信号強度、信号到来時刻差、信号到来方向)に関して、これらの組合わせ方式の検討も行った。サイバーセキュリティは今後ますます重要性を増す分野である。特に、5G など無線技術の進歩に伴い、無線通信を基本とした様々なシステムが開発・運用されることが予想される。このような状況において、無線通信で接続されたコンポーネント同士の真贋を見極める技術は必須となり、本研究の成果はこの課題に対する直接的なアプローチを提示している。本研究では自動車のタイヤ空気圧監視システムを対象に評価を行ったが、原理的にはすべての無線通信デバイスに適用できるものであり、様々な応用展開が期待される。
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