刺激に暴露した直後の人の感性応答の変化を捉えるための方法として,Temporal Dominance of Sensations (TDS) の研究で用いられる実験方法を導入し,イチゴや梅干しを題材として,食事中の知覚および感性の時間変化を計測した.この方法は,通常は知覚された情報の変化(味覚の変化)を捉えるためのものであるが,これを感性応答にまで拡張した.適切なデータ処理方法が何であるかを見極めながら,その後の数学的解析との相性を検証した結果,感性のダイナミックデータを解析するための有効な2手法に到達した.1つは,脳科学・経済学分野で発展したベクトル自己回帰モデルとGranger causalityの組み合わせである.この手法は,多次元時系列データの因果関係を統計的かつ強力に検証することを可能とし,感性データに対する有効性を確認した.その結果として,ダイナミックな感性データの因果関係モデリングを実現した.もう1つは,ヒトに代表される多自由度冗長系で稀に用いられる主動作分析である.これを感性データに適用した結果,複雑で自由度の高いデータを,時系列情報の性質を失わずに統計的に意味のある数個のパラメータで表現できた.この手法はよく知られたパラメトリックな統計手法と相性が良いことから,手法の感性データへの実用性の高さを確認した.このように,感性のダイナミックデータの背後にある数理構造を捉えることに成功し,当初予定した研究計画以上の成果が得られた.
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