研究課題/領域番号 |
17K20017
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
正木 宏明 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (80277798)
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研究分担者 |
三浦 哲都 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (80723668)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ミラーニューロン / 同調動作 / φ帯域 / μ帯域 / 脳波 |
研究実績の概要 |
本研究では,同調動作を必要とするスポーツ種目の選手ペアが,対面状態で手首の同調動作を遂行した際に生じる「脳波のファイ(φ)あるいはミュー(μ)帯域の抑制(いずれも10-13 Hz)」について,その機能的意義を調べ,アスリートのパフォーマンス向上やリーダーシップ特性の評価に応用することである. 平成29年度では,ボート競技の選手ペアから脳波を測定した.実験では,二者が対面して手首の屈曲伸展運動を遂行した.自律条件では,衝立 を二者間に設置した状態で自己ペースの手首運動を遂行した.同調条件では,手首運動を先導するリーダーの動作にフォロワーが同調させた.また,相手が普段の競技ペアと他者との場合で比較した.その結果,自律条件よりも同調条件の方がφ1(10-11 Hz)抑制が明瞭であった.ペア相手の親和度の効果はなかった.また,φ1抑制の大きい者ほど,対人コントロールは低いという負の相関が認められた.リーダーシップ特性との間には相関はなかった. 別の実験では観察学習とμ抑制との関連を調べた.モデルが学習者に手本を示範する際,観察視点から,モデルは背面モデル,鏡像モデル,対面モデルに大別できる.そこでボタン押し運動を3視点で観察・模倣させた際のμ抑制を調べた.その結果,反応時間はモデルが背面<鏡像<対面の順に遅延し,エラー率は鏡像よりも対面モデルで高い傾向だった.中心部のμ帯域パワ値にはモデル示範の視点効果はなかった.さらに,あやとり課題で学習に及ぼす視点効果を参加者間計画で検証した結果,学習初期の模倣時には背面群のほうが他群よりも成功率は高く,再生テストでも背面群のほうが対面群よりも成績が高い傾向であり,学習初期における背面モデル示範の有効性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では,アーティスティックスイミング選手を対象に,φ2 (11-12 Hz)増強に及ぼすスキルレベルと経験年数の効果を検証する予定であった.しかしながら,実験参加者の募集が難航したため,平成30年度の計画を前倒しし,競技種目をボート種目に変更した.その結果,理想的な実験参加者数とはいえないものの,統計解析に十分なデータを収集することができた.この実験から得られた知見は,本研究のパラダイムの有効性を支持するものであり,種々のスポーツ種目に広く適用可能であることを示している.また,φと同様に共感性を反映する指標となるμにも注目し,観察学習時のμ抑制を検証した.背面モデル(後ろからモデルの動作を観察する),鏡像モデル(対面であるが鏡写しの動作を観察する),対面モデル(対面で動作の四肢を合致させて観察する)の3視点が観察・模倣に及ぼす効果を調べることで,μの機能的意義がより明確になった.φもμもアルファ(α)帯域と周波数が重複し,動作肢に伴う左右対称性を示す.そのためα帯域の左右偏側性についても検討し,各周波数の振る舞いの差異を調べた.ボール把握課題を用いて,どのような動作条件でα帯域の偏側性が最大に生じるかについて調べた結果,比較的強く長くボールを把握する必要性が示唆された.この知見については他のデータに先行して論文化することができた.重複する各周波数帯域について,その機能的意義を複数の実験で明らかにしつつある点で順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度も引き続き,対面による同調動作実験を実施する.初年度のボート選手のデータから,φ帯域がリーダーシップ特性を評価するバイオマーカーとならないことが示唆された.一方,共感性についてはバイオマーカーとしての有用性が示唆されたので,詳細な検証を続ける.本年度では精確な同調動作が求められるダンスあるいはチアリーディング競技の選手を実験対象者とする.ペアの相手に対する既知性も操作し,仲間と見知らぬペアとではφ帯域の振る舞いがどのように異なるか検証する.φと同様に共感性を反映するμ帯域の振る舞いについては,観察学習課題を用いてさらに検証していく.μ帯域に反映される共感性とパフォーマンス向上との関係を明らかにすることを目指す.研究の進捗状況が良い場合には,ペア間で役割の異なる競技(例えばソフトテニス)についても前倒しに検証を開始する.同調性と役割分掌の2つの視座から,φ帯域の二者間での不均衡性を調べることは,同調性と連携を重視するスポーツ種目のアスリートの適性を捉えるうえでも有意義である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度ではボート競技者のペアを用いて実験を実施した.ボート競技者の人数が限られていたことと,データ取得できる実験期間に制限が生じた.そのため,統計分析できるだけのデータは取得したが,さらに多くの実験参加者からデータを取得することが理想であった.平成30年度では同調性が求められる他のスポーツ種目(例えばダンスやチアリーディング)を研究対象とし,実験参加者を増やすことでさらに信頼性の高いデータを取得する.そのために実験参加者謝礼金に繰り越し分の一部を充てる.また,研究成果を報告する機会をできるだけ増やすことを考え,旅費不足分に充てる.
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