令和3年度では、同調動作以外の運動課題を用いて検証した。ここではゴルフパッティング課題遂行中の脳波を計測し、プレッシャー下で左右いずれかの半球を選択的に賦活させた場合の皮質活動を測定した。実験では左手把握、右手把握、把握なしの3条件を設定した。参加者はソフトテニスボール(ゲージ圧100hPa)を2cm変位させる強度で90秒間反復把握した後に、課題を40試行遂行した。条件開始前にはMRF-3で状態不安を測定した。脳波以外に心電図も測定した。プレッシャーはビデオ撮影と報酬・罰付加で操作した。実験の結果、MRF-3の不安・緊張得点と心拍数はプレッシャーによって上昇した。一方、パフォーマンス(目標からの逸脱距離)はプレッシャー下で向上し、「クラッチ」現象が観察された。把握の主効果も有意であり、左手把握条件のほうが右手把握条件よりもパフォーマンスは優れていた。脳波のコヒーレンス解析では、T7-Fz結合性にプレッシャーおよび把握の効果はなかったが、動作前2-1秒区間よりも動作直前1秒区間のほうがT7-Fz結合性は低かった。T8-Fz結合性(動作前2-1秒)はプレッシャーで低下した。実験前のボール把握時のアルファ帯域偏側性については、左手把握は右手把握よりも低いAAS (alpha asymmetry score)を誘発した。本研究ではプレッシャー付加と左手把握に伴って遂行成績が上昇したが、左半球の結合性(T7-Fz)に変化はなく、従来提唱されてきた言語活動の関与は支持されなかった。むしろ右半球における結合性(T8-Fz)の意義ついて検討することの重要性が示唆された。
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