研究課題/領域番号 |
17K20019
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
細野 美奈子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (70647974)
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研究分担者 |
井野 秀一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 総括研究主幹 (70250511)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 運動支援 / 高齢者 / セルフエフィカシー / アクチュエータ / システム設計 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生活行動空間(life-space mobility)が低下しがちな高齢者が自己主体感を持って運動に取り組めるよう、在宅かつ座位で利用可能な運動支援システムの開発を行い、システムが運動・認知機能に与える影響を評価することである。研究の1年目では、主に運動支援システム構築に向けた予備的実験とシステムの試作に取り組んだ。具体的には、予備的実験として、座位で取り組む足部の軽運動が心理的・身体的に与える影響を人間工学実験によって評価した。この実験の結果、心肺機能への負担がない程度の軽運動への取り組みであっても、心理的影響を及ぼすこと、さらに、心理的影響の傾向には個人間に大きな差が生じること、運動習慣の有無やセルフエフィカシーとは別の要素が心理的影響を与える要因として考えられることが示唆された。この実験結果から、運動の習慣化を支援する際には、低強度で生理的な変化の少ない軽運動であっても心理的に大きな個人差を生じる可能性を考慮してシステム設計に取り組む必要性のあることが確認さ れた。この考察をもとに、生成する動きに対してフレキシビリティを持つ運動支援システムを試作した。具体的には、システム使用者の意志や発想で任意の足部自動運動が可能となるよう、①拘束や装着することなく使用可能であること,②緩衝作用による反力を利用可能であることを満たすアクチュエータの設計と開発に取り組んだ。最終的に、システムの応答性や安定性の観点から空気圧アクチュエータを利用した運動支援システムを試作した。これらの研究成果は査読付きの国際学術誌で採録され、スポーツサイエンス分野の国際学会や、人間計測や生活支援に関わる国内の学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動意欲の喚起や運動の習慣化を促す座位のまま利用可能な運動支援システムを開発するために、1年目は基礎設計に向けた予備的実験としての人間計測およびシステムの試作に取り組んだ。まず予備的実験として、座位で取り組む足部の軽運動が心理的・身体的に与える影響を評価することを目的に、被験者を募集して座位で足関節の背屈運動を行った。身体的影響の評価指標として膝周辺の血流量と脈拍数を計測し、心理的影響の評価指標として主観的運動強度(RPE)と快・不快度を評価するフィーリングスケール(FS)を用いた。実験の結果、身体的影響に関しては運動習慣の有無によらず血流量は運動によって増加し、脈拍数は安静状態と比較して大きな変化は見られなかった。一方、心理的影響に関しては、運動習慣の有無によらずRPEとFSともに個人間で大きく異なる傾向が見られた。以上の結果から、心肺機能への負担がない程度の軽運動への取り組みであっても、心理的影響には個人間に大きな差が生じること、運動習慣の有無やセルフエフィカシーとは別の要素が心理的影響を与える要因として考えられることが示唆された。 続いて、予備的実験で得られた示唆をもとに、生成する動きに対してフレキシビリティを持つ運動支援システムを試作した。システム使用者の意志や発想で任意の足部自動運動が可能となるよう、①拘束や装着することなく使用可能であること,②緩衝作用による反力を利用可能であることを満たすアクチュエータの設計と開発に取り組んだ。システムに利用するアクチュエータとして、気体を駆動源として利用する複数種類のアクチュエータを設計・試作し、それぞれの特性を比較、検討した。これらの結果をもとに、システムの応答性や安定性の観点から空気圧アクチュエータを利用した運動支援システムを試作した。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目は、運動支援システムの基礎的検証に取り組む。はじめに、1年目で試作した運動支援システムを用いた場合に実現可能な足部運動の割り出しとカテゴライズを、人間工学実験を通じて行う。実験結果をシステムのエンドエフェクタや制御プログラムの設計へと反映させることで、試作システムの改良に取り組む。続いて、開発した運動システムが使用者の残存する運動機能へと与える影響について、人間工学実験による評価を行う。人間工学実験の参加者として、日常的な運動への取り組みに対して動機づけ段階に属する高齢者および意図段階に属する高齢者双方を公募することを計画している。実験では、先にカテゴライズしたいくつかの運動パターンについて、参加者が実際にシステムを利用して実行する。このとき、システム使用前および使用中、使用後の使用者の生理学的な変化を加速度計や筋電計、パルスオキシメータなどの生体計測センサを用いて計測する。また、使用前後にアンケート調査も行い、使用感や疲労感、セルフエフィカシーや自己主体感といった心理的指標に関する評価と生体計測結果との相互関係性について検討する。得られた結果をもとに、運動支援システムが使用者の運動機能や心理状態へ与える影響を考察し、試作したシステムを用いた運動支援方法、すなわちシステムの最大の特色である、「自動運動を促す機能」と「物理的な刺激により運動継続を促す機能」のの有効性について評価・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、研究1年目に運動支援システムの構築に取り組む中で、エンドエフェクタの変形によって促される足部の運動が単純な足関節の底背屈運動ではない可能性が示唆されたことが挙げられる。これにより、システムの特色および検証項目の1つである「自動運動を促す機能」についてより深く検討するためには、生理計測を含む人間工学実験と並行しながらエンドエフェクタや使用する空気圧アクチュエータの設計の改良に取り組む必要性が生じた。具体的には、エンドエフェクタの膨張や収縮により促される足部の運動を実施した際に、足関節の底背屈運動に主に寄与する前脛骨筋や腓腹筋以外の筋が主として活動している可能性が、筋電計測および被験者の内観報告から示唆された。そのため、エンドエフェクタの形状や空気圧アクチュエータの出力や制御方法について人間工学実験を通じて精査・検討した後、次年度使用額を用いてシステム全体の改良に取り組む予定である。
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