本研究では,対面する実験協力者双方における脳活動の同時計測(ハイパースキャン)データから,それらの間の相互作用と,非言語的コミュニケーションにおける行動指標や主観的評価指標との間の相関関係を明らかにして,相互の意思疎通度合いを評価すること,さらには評価した情報をフィードバックすることで意思疎通の良さを操作可能かどうか明らかにすることを目指している. 今年度は,仮想(Virtual Realiry:VR)空間での協調作業におけるパフォーマンスと脳活動との関係を調べることを目標とした.ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して,(a) アバターと介して向かい合った二者(Immersive VR(IVR)条件),あるいは (b) 直接相手の姿が見える状態で向かい合った二者(対面条件)の間で,提示された問題の解決方法を考案する課題を遂行中に,脳波同時計測を行った.この結果,行動指標として計測した考案した課題解決方法の数と評価者によって評定された解決方法の「オリジナリティ」にはIVR条件と対面条件との間に有意な差がないのを反映して,課題遂行中のθ(4~8 Hz),α(8~12 Hz),β(15~30Hz)帯域の自発脳波強度には両条件間に有意な差が観測されなかった.他方,IVR条件では,主観指標として計測した「Co-presence(同じ空間を共有している主観的感覚)」が有意に低下し,「孤独感」が有意に上昇した.これらの主観的感覚の変化をそれぞれの実験協力者の脳波指標あるいは両実験協力者間の脳波コヒーレンス等のコネクティビティ指標で表現可能であるかどうかの検証が課題として残されている.
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