研究課題/領域番号 |
17K20034
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平林 晃 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (50272688)
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研究分担者 |
井尻 敬 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (30550347)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 果物・野菜の鮮度推定 / 音プローブ / 振動プローブ / 機械学習 / 汎用センサ |
研究実績の概要 |
本研究では,野菜や果物の状態(貯蔵日数・鮮度・硬度など)を,消費者が手軽に調べられる推定法の実現をめざし,汎用センサのみによる野菜・果物の状態推定手法を開発している.提案法のカギとなるアイディアは,音プローブおよび振動プローブを利用することである.対象とする野菜・果物に対して,1. 可聴域音を当て,2. その反射音を計測し,3. 機械学習を応用することで,反射音から貯蔵日数や硬度を推定する.推定に利用する機械学習のために必用なデータ収集も本研究にて行なう.また,音が伝わり難い表面の硬い果物に対しては,振動プローブを当て,その応答をマイクより(または振動センサより)計測する.本研究課題は,『A)音プローブを用いた果物・野菜の状態推定』『B)振動プローブを用いた状態推定』『C)音・振動を組み合わせた状態推定』という3件のサブ課題に分割され実施される計画である.
これまで,我々研究グループは,サブ課題Aの音プローブを用いた鮮度・硬度推定に関する研究を実施した.特に,トマト・みかんを対象として反射音・貯蔵日数・硬度データの収集を行い,音信号の前処理・識別器の訓練・実際の識別を行なうソフトウエアを実装した.手法の精度を評価するため収集データを用いた交差検証を行い,反射音から貯蔵日数や硬度を良好な精度で推定できることを確認した.現在,研究成果の論文発表準備を進めている.また,サブ課題Bの振動を与えるデバイスの選定のため,複数の振動アクチュエータを用いて果物に振動を与え反射音を計測する実験を実施している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・サブ課題Aの進捗 : 当初の計画通り,音プローブによる状態推定に関する研究を,トマト・みかんに対して実施した.特に,トマトとみかんそれぞれ150個程度に対し,貯蔵日数・硬度・反射音を計測する実験を行なった.さらに計測音から音信号の前処理を行なうソフトウエア,収集データから回帰器を訓練するソフトウエア,訓練した回帰器を用いて鮮度推定を行なうソフトウエアの実装を行なった.実装したソフトウエア群は,下記のサブ課題BCにおいても流用可能である.提案法の精度を確認するため,収集データに対して交差検証を行なった結果,反射音から貯蔵日数・硬度を比較的良い精度で推定できることを確認できた.この成果は現在論文発表準備中である. ・サブ課題Bの進捗 : 振動プローブによりスイカの状態(『す』の有無と鮮度)を推定する手法を開発する計画であった.特に,初年度は,ハードウエア開発のための小規模な実験を予定していた.しかし,研究開始が初夏であったことと分担者の所属異動があったため,実験計画が遅れスイカを対象とした実験が行なえなかった.この遅れを取り戻すため,スイカサンプルの入手が可能な2018年3~5月にハードウエア開発を行い,2018年7~8月にスイカ50個程度を利用した実験を計画している.この実験では,品質の低い(すの有る)スイカが必要となるため,生産者と協力して準備を進めている. ・サブ課題Cの進捗 : 音・振動を組み合わせて果物の状態推定を行う手法を開発する.本研究課題は,サブ課題Bを実施した後に行なう予定である. ・その他 : 初年度前半は,実験用デバイスの選定や実験環境構築を行なっており,実際の実験は行なえなかった.その間,本研究に関連する音信号処理や深層学習に関する研究を行い,その成果を国内学会にて発表した.
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今後の研究の推進方策 |
・サブ課題A:音プローブを用いた果物の鮮度・硬度推定については,りんご・みかんに対するデータ収集,推定ソフトウエア開発を済ませており,2018年度は成果発表に注力する. ・サブ課題B:振動プローブを用いた果物の状態推定については,スイカの品質(すの有無)と鮮度推定に関する実験を行なう予定である.現在,振動プローブを与えるデバイスの選定を進めている.特に高い再現性が要求されるため,デバイスを本研究グループ内で作成するのではなく,音を振動に変換できるテクタイルツールキットの利用などを検討している.また,2018年7月から8月にかけて,50個程度のスイカサンプルを利用した計測実験を計画している.この計測実験では,通常通り出荷されるサンプルだけでなく,品質の悪いサンプルが必要となるため,品質を調整したサンプルの作成を生産者に依頼している.また,サブ課題Bでは,パインを対象とした実験も計画していた.しかし,輸入果物の収穫時期を正確に調べることは容易でないことが分かった.そこで,収穫時期が正確に分かるパインサンプルを用意できない場合は,計測対象をメロンなどの果物に変更することや,スイカの実験のみに注力する方向で実験計画を変更する. ・サブ課題C:音・振動を組み合わせてマンゴーの鮮度・硬度推定を行なうことを計画していた.ただし,サブ課題Bの多少の遅れに伴い,サブ課題Cの実験時期を遅らせる必要が生じており,時期的に日本国内産マンゴーの確保が困難な可能性がある.そこで,余裕を持って研究を推進するため,マンゴーではなくりんごに対象を変更し,サブ課題Bの実験と重複しない秋・冬ごろに,サブ課題Cの実験を行うことを計画している. ・本研究の目的は『音・振動により果物の状態を推定できるか?』を調査する事であり,各課題において対象果物を変更することは,本研究の目的には大きく影響しないと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に述べたように,サブ課題Aの研究成果に関して,現在論文発表を準備中である。この発表を平成29年度内に実施する予定であったが,平成30年度にずれ込んでいる。この為に平成29年度に計上していた旅費が残額となっている。また,サブ課題Bに関して,平成29年度に実施予定であったスイカを対象とした実験を平成30年度に実施することとなっており,このための経費も残額となっている。これらの要因によって次年度使用額が生じている。これらの結果に基づき,平成30年度は当初計画の課題に加えて上記2課題を早急に実施することにより,当該年度に生じた次年度使用額を執行する予定である。
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