研究課題/領域番号 |
17K20038
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池中 良徳 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40543509)
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研究分担者 |
川合 佑典 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (10709546)
鈴木 淳史 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (30415195)
三谷 曜子 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (40538279)
石塚 真由美 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (50332474)
水川 葉月 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (60612661)
中山 翔太 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (90647629)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 化学物質感受性 / 種差 / 誘導性肝臓様細胞(iHep) / Metabolism |
研究実績の概要 |
化学物質の感受性の差は種により数千倍に及ぶこともあり、実験動物を用いた毒性試験の結果を野生動物にそのまま外挿することは難しい。特に希少トッププレデターでは、化学物質の影響を直接観察できるin vivo実験は実質困難であり、それゆえ化学物質感受性の“種差”を適切に評価できる実験系は未だ存在し無い。そこで、本研究では、化学物質感受性決定因子である薬物代謝“Metabolism”を、野生動物の皮膚線維芽細胞より作成した誘導性肝臓様細胞(iHep)を用いて評価することを試みる。 2017年度は、①野生動物の皮膚繊維芽細胞の培養およびiHep細胞への誘導因子の選定および、②食肉目動物の薬物代謝第II相抱合酵素活性、特に硫酸抱合酵素(SULT)の評価を実施した。 先ず、①の実験では、野生動物の線維芽細胞としてツシマヤマネコやキタオットセイ、コツメカワウソ等の希少野種を含む10種以上の線維芽細胞ストックを作成した。一方、線維芽細胞から肝細胞への誘導に必要な因子として、食肉目であるネコをモデルに鈴木因子のクローニングを実施した。次に②の実験では、食肉目SULTの遺伝子データベース検索の結果、SULT分子種の遺伝子は1ファミリーに属する分子種として食肉目で1A1, 1B1, 1C1, 1C2, 1C4, 1D1, 1E1の存在が明らかとなった。遺伝子コード領域の比較検討の結果、ヒトとほとんどの食肉目動物においてSULT1B1, 1D1, 1E1の3分子種はUGT2A1/2遺伝子とCSN1S1遺伝子の間にコードしていることが明らかとなった。しかし、鰭脚類のアザラシとセイウチではUGT2A1/2遺伝子とCSN2遺伝子の間にコードされ、SULT1E1分子種の欠損が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ツシマヤマネコを始めとした数種の希少野生動物の皮膚繊維芽細胞のストック作成を実施した他、ネコをモデルに食肉目特異的な因子のクローニングを完了した。一方、ダイレクトプログラミングによるiHep細胞、特に薬物代謝酵素活性を十分に獲得した細胞の作製には時間を要しており、2018年度の課題となっている。因子だけでなく、Chemicalを用いた誘導法もその一つであり、今後はこれらの組み合わせにより“種共通”の分化因子を探索していく予定である。 一方、食肉目の硫酸抱合(SULT)活性については、極めて新たな知見を見出すことが出来た。ネコ、およびラットと比較して鰭脚類のキタオットセイではSULT1E活性が非常に低い事が明らかにできた。これらのことから鰭脚類ではSULT1E1分子種の活性が非常に低く、機能的な役割を持っていないことが示唆された。SULT1E1分子種はBisphenol AやHydroxy-polychrorinated biphenyls等の環境化学物質の代謝に重要な酵素である一方、内因性物質のエストロゲン代謝を担う酵素群である。エストロゲン代謝はUGTとSULTで相補的に担われているが、ネコではSULT活性が比較的高く、主にSULTを用いた代謝が行われている可能性が考えられた。一方鰭脚類ではUGTとSULT共にエストロゲンに対する活性が低い。そのため鰭脚類においては代償的な代謝経路を含む、その他のエストロゲン代謝経路に大きな種差がある可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度も継続的に希少野生動物の皮膚繊維芽細胞の採取を試みる。肝臓様細胞(iHep細胞)への誘導因子についても、これまでのHnf4αやFoxaに加え、他の候補因子についてクローニングを実施する。一方、今後、種を超えたiHep細胞への誘導を考慮すると、発生学的に各種でどのような因子が重要であるのか、明らかにしていく必要がある。また、これら遺伝的因子に依存しない誘導法の確立も重要になる。Chemicalを用いた誘導法もその一つであり、今後はこれらの組み合わせにより“種共通”の分化因子を探索していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は希少野生動物からの皮膚線維芽細胞の培養に時間を有したため、次年度使用額が生じた。2018年度は誘導性肝臓様細胞(iHep細胞)への誘導因子の選定に使用する。
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