本研究では、日本列島周辺の有用魚種を対象に堆積物中の環境 DNA が浮魚類個体数を推定する方法として有用性があるかについて明らかにすることを目的として、貧酸素海域である別府湾ではある程度目的を達成した。しかし、海底が有酸素下にある海域でこの手法を適用するためには、ごくわずかなDNA量で定量が難しい。そこで、期間を延長してDNA収率の改善によりDNAを定量するための手法開発に取り組むことにした。 2019年度では、大容量サンプルからのDNA収率改善実験を行った。実験では、大分県別府湾の堆積物コア試料を使用し、最適な抽出条件を明らかにするために、3種類のDNA抽出キット、堆積物サンプル量、ビーズ破砕時間、ビーズ有無、新たなPCR効率向上試薬の使用、5つの条件を変えて、44通りのDNA抽出及び定量PCR法を行った。G2エンハンサー有り、DNA Isolation Kit使用、ビーズ破砕時間0秒、Taqpath有り、の条件でもっともDNAの収率が高いことがわかった。試料量増加は、PCR阻害物質の除去率低下につながるので、容量が倍になればDNA収率も単純に倍になるわけではないが、定量PCRの繰り返し実験での検出率は明らかに本手法で改善がみられ、本研究によって低濃度DNAの検出効率を高めることができた。 研究期間全体を通じては、少なくとも貧酸素海域であれば、過去数百年間にわたる魚類個体数の推定に、堆積物中の環境DNAが利用できることを示すことができた。当該研究内容をまとめた論文も国際誌にアクセプトされ、近々公表される予定である。
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