研究課題/領域番号 |
17K20048
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松本 淳 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (70402394)
|
研究分担者 |
加藤 俊吾 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (20381452)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 大気化学反応 / 揮発性有機化合物 / 森林大気 / 反応性 / 温度依存 / オゾン / 光化学オキシダント / 包括計測 |
研究実績の概要 |
(目的)大気環境問題では、人間活動に伴う原因物質の効果的な放出抑制が重要な課題である。同時に、自然起源物質の正しい動態解明や影響評価も、人為発生源対策の大前提として重要視される。植物から大気に放出される生物起源揮発性有機化合物 BVOCs は、微小な浮遊粒子状物質 PM2.5 の一部となる二次有機エアロゾル SOA や、光化学オキシダント Ox の生成前駆体として働く。PM2.5 や Ox は健康影響や気候変動にて問題となる。人為起源の大気汚染物質の対策には、森林放出 BVOCs の把握が前提となる。従来の個別成分測定では、種類が膨大な BVOCs の網羅的把握は困難で、多様な BVOCs の総量を、反応性も考慮しつつ数え落としなく包括的に測定することが有望視されている。本研究は、独自に構築してきたオゾン反応性の包括計測装置 RO3 計を発展させ、実際の森林大気観測を世界で初めて試みて、BVOCs の挙動と支配要因の把握を目指す。 (計画)そのために、(1) RO3 計のさらなる改良、(2) 狭山丘陵での森林大気集中観測、(3) RO3 観測結果に基づく BVOCs 支配要因の検討、の課題に挑戦する。 (成果)当該年度には、各課題について次の成果を得た:(1) 装置各部(オゾン計・オゾン発生装置・反応容器・周辺の配管等)について改良を施し、RO3 計の感度と安定性の向上、およびオゾン濃度など外気要因の変動を補正する手順の改善、を実現した。(2) 早稲田大学所沢キャンパス内で、2018年春までに数回(延べ10日)の RO3 観測試験を実施した。その結果、外気試料について有意な RO3 値の捕捉に世界で初めて成功した。(3) 特に夏季日中の高温時に RO3 値の上昇が見られ、BVOCs の植物からの放出量の温度依存性を反映したと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 本研究は、大気試料にオゾンを添加する際のオゾン濃度の変化量を高精度にモニターすることで、揮発性有機化合物 VOCsをオゾン反応性として包括的に評価する独自装置 RO3 計を活用して、森林大気における植物由来揮発性有機化合物 BVOCの実情の把握・解明に貢献することを目指している。当該年度は、これまでに構築してきた RO3 計の改良、およびそれを用いた森林大気観測の試みを実施し、植物由来 BVOCs を初めて実際に捕捉することに成功し、BVOCs放出量の温度依存性を示唆するなど、おおむね順調に進展している。このことは、今後の研究遂行に十分に貢献すると期待される。ただし、本研究課題の採択が7月に決定した後、研究代表者と研究分担者の研究機関間での研究費移行手続きが12月にずれ込んだ事情もあり、研究分担者によるBVOCs 個別成分分析は当該年度中の森林大気観測試験には間に合わず、当初計画以上には進展できなかった。なお、個別成分分析の事前準備のうち特に重要な点については春までにおおむねめどがついた。以上のことから、上記区分を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画にしたがって、今年度までに改良したRO3 計を活用し、研究計画の各課題について、以下を推進する方針である: (1) RO3計の特性に関する基礎実験データを随時蓄積する。また、観測状況を考慮して必要に応じてさらなる改良を施す。(2) 狭山丘陵における森林大気観測を随時実施し、観測事例を蓄積する。特に、キャニスター捕集による BVOCs 個別成分分析を同時に実施し、捕捉される RO3 値の内訳について検証できるようにする。(3) 蓄積される観測結果に基づいて、RO3 の支配要因や特性についての検証を進める。 以上を含めて、本研究にて得られる成果は、国内学会および国際学会において発表し、本研究の独創性を内外にアピールして、今後のさらなる発展につなげる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は今年度に準備を完了し観測試験への活用を試みる予定であったキャニスター捕集による個別成分分析や、そのほか各項目に関連する用品・消耗品等については、別記(*)の事情に伴い、一部は次年度の早い時期に(遅くとも夏季集中観測までには)調達するようにする。当初計画に示した通り、本研究では次年度夏季の集中観測を最重要視しており、今後は特にそこに研究資源を集中する。 (*)本研究課題の採択が7月に決定した後、研究代表者と研究分担者の研究機関間での研究費移行手続きが12月にずれ込んだ事情もあり、研究分担者によるBVOCs 個別成分分析は初年度中の森林大気観測試験には間に合わなかった。
|