研究課題/領域番号 |
17K20050
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
小達 恒夫 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (60224250)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋生態 / Antarctic Ocean / Sea ice biota / Micro habitats / Altarnative passway |
研究実績の概要 |
平成29年度には海氷生成装置1基を試作して、研究代表者の所属する情報・システム研究機構国立極地研究所内の低温実験室内で、植物プランクトン等を含まないろ過海水を用いて海氷生成状況を確認し、おおよそ2日間で5 cmの海氷が生成されることが分かった。平成30年度には、平成29年度に得られた植物プランクトンの培養株を加えた海水試料を調整し、海氷生成実験を行った(初期クロロフィルa濃度は3.0μg/L)。その結果、生成された海氷中のクロロフィルa濃度は26.2μg/Lに達していることが分かった。このことは、植物プランクトンが氷の結晶核となり海氷生成とともに濃縮されたことを示していると考えられた。なお、この実験では海氷生成過程をビデオ撮影していたため、光を当てた状態で行った。そのためか海氷下の海水でもクロロフィルa濃度が4.6μg/Lに増加していた。 海氷生成過程のビデオ映像を詳細観察にしたところ、試作した装置では撹拌子の上部と下部で発生させた乱流場に偏りが生じることが分かり、現場における海水の混合状態を再現していないという問題点が判明した。これは、同装置の撹拌子は上面のみ羽を付けたことに起因すると想定された。この問題を解決するため、上下両面に羽をつけた撹拌子に変更することとした。その他、微細な変更を加えた改良型海氷生成装置を計6基作製し、次年度の海氷生成実験に備えた。 一方、平成29年度に培養した南極海季節海氷域で優占する植物プランクトン株の維持を行い、次年度の海氷生成実験に備えた。 また、南極海季節海氷域で採集された海氷・海水試料を用いて、海氷中に優占する生物種と海水中で優占する生物種の特徴を明らかにしてき。これらの結果は、国際研究集会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に試作した海氷生成装置を用い、植物プランクトンを含む海水試料に対して、海氷生成実験を行ったところ、生成される海氷には植物プランクトンが濃縮されていることが判明した。このことは本研究を立ち上げる発想となった、植物プランクトンを核とした氷の結晶が形成された場合、浮力を得るため、表面に集積・濃縮されマイクロハビタットが形成されるという予想を支持するものである。なお、平成30年度に行った実験では、光を当てた状態で行ったため海氷下の海水中でもクロロフィルa濃度の増加が見られた。このことは海水中だけでなく、海氷中でも植物プランクトンの増殖が進んでいた可能性が示唆された。 平成30年度には、試作器の問題点に関して検討を加え、現場の海氷生成期における海水の混合状態を再現する改良型海氷生成装置(6基)を完成させた。一方、南極海季節海氷域において優占する植物プランクトン株が維持されており、南極海の現場を再現する海氷への取り込み実験を行うことが可能となった。 また、本研究課題と関連し、南極海季節海氷域における海氷および海水中に優占する生物種の特徴を明らかにし、国際研究集会で発表してきた。 以上の状況から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに完成させた改良型海氷生成装置(6基)と南極海季節海氷域において優占する植物プランクトン株を用いて、海氷生成実験を行う。このことにより海氷に取り込まれやすい植物プランクトンの種・サイズ・形態の特徴を明らかにする。 また、平成30年度に行った実験では、光を当てながら海氷を生成させると、海氷中および海水中でも植物プランクトンが増殖する可能性が示唆された。そこで、海氷中というマイクロハビタット内における現存量増加過程に関する研究の予備実験を行う。すなわち、光を当てながら海氷生成を行う系と光を遮断した系の比較実験を行う。さらには、生成された海氷に光を当てながら維持し、海氷中の藻類の量の変化を調べる。その際の、光条件(光量、継続周期)と藻類量の変化との関係を明らかにする。こうした研究により、マイクロハビタット内の藻類現存量増加が起こり、藻類を摂食する動物を海氷内に誘引する可能性が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に試作した海氷生成装置では、撹拌子の上部と下部で発生させた乱流場に偏りが生じることが分かり、現場における海水の混合状態を再現していないという問題点が判明した。これは、同装置の撹拌子は上面のみ羽を付けたことに起因すると想定された。この問題を解決するため、上下両面に羽をつけた撹拌子に変更することとした。この改良に時間を要し、納品されたのが平成30年度末となった。そのため当該年度には十分な実験を繰り返すことが出来なかったため、実験に必要な試薬等の消耗品費の支出の必要がなかった。そのため、約20万円の次年度使用額が発生した。 令和元年度においては、上述の未使用額および支払請求額を海氷生成実験に必要な消耗品費に支出し、可能な限り実験回数を増やす。
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