研究課題/領域番号 |
17K20055
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
福田 智一 岩手大学, 理工学部, 教授 (40321640)
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研究分担者 |
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / アマミノクロウサギ / 細胞 / 無限分裂 / 細胞保存 |
研究実績の概要 |
本年度は交通事故死したアマミノクロウサギの筋肉から新たに3個体の初代培養細胞を得ることに成功した。得られた細胞を安定的に液体窒素タンクに保存し、再度融解後に細胞が生存していることを確認した。加えて本年度、変異型CDK4、サイクリンD、テロメア逆転写酵素(TERT)の発現によって、元の染色体状態を保持したまま、無限分裂できることを明らかにした。本研究は我が国固有の絶滅危惧種の無限分裂細胞を作製し、学術的に重要な結果である。この細胞の樹立によって、世界中の研究者と無限分裂細胞を研究材料として共有できる状態になった。また、無限分裂細胞の成功によって、理論的に同一個体から無限にゲノムDNAおよびRNAを採取することが可能になった。さらにアマミノクロウサギのオス1個体のゲノムに関して、ショートリードであるHiseqシークエンサーおよびロングリードであるPacBioシークエンサーを組み合わせ、おおよそのゲノム構造を推定できる段階にまで来ている。今後、アセンブルの条件を試行錯誤し、最も重複が少ない最適な条件でゲノムのアセンブルを完了する予定である。得られたゲノムの構造情報から、アマミノクロウサギとアナウサギを比較し、進化の上での差異を明らかにする予定である。ゲノム構造の解明へ大きな研究成果を得たが、1個体だけでは個体差によるものか、種差によるものなのかが不明であり、今後複数個体のゲノム情報を解析する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予想された、ゲノム構造の解明は、タンパク質をコードする領域のみが限界であろうと考えられていたが、アセンブルにおいて独自のアルゴリズムを適用すること、加えてロングリードシーケンスにおいて精度の高い情報が得られたために、全ゲノムの80%を超えるカバレッジが得られている。これは個人レベルで行うゲノム解析プロジェクトとしては、例がないほど高い値である。また、アマミノクロウサギの染色体状態を保持したまま、無限分裂できることが判明した。我が国固有の絶滅危惧種、天然記念物からの無限分裂細胞の作製したことは学術的意義が大きい。今後、ゲノム上の配列の進化の謎を解明できるよう、研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
さらに細胞保存できるように、初代培養の個体数の増加を試みる。さらに、無限分裂細胞に関して体細胞クローン技術によって発生可能な胚が得られるかどうか検討する。また、ゲノム情報に関して、アセンブルの最適化を行い、さらなるカバレッジ割合の増加を目指す。ゲノム配列が得られた1個体の情報を元に、他の個体でもゲノム配列を得ることによって、配列の違いが個体差なのか種差であるのかを明らかにしたい。しかし複数個体のゲノム情報を得るためには、1個体あたり250万円-300万円の費用が必要であり、今後別の研究費を獲得することが研究を進める上で課題となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
アマミノクロウサギのゲノムのアセンブル条件が予想されるよりも複雑度が高く、アセンブルの条件に時間を必要としている。しかし当初はタンパク質をコードする領域だけ程度しか解明することは難しいであろうと予想されたが、全ゲノムを解読する段階に到達した。さらにアセンブルを継続し、全構造の解明を目指すために、次年度の予算使用が必要となっている。
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