研究課題/領域番号 |
17K20058
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉岡 敏明 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (30241532)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | セシウム / 減容化 / 脱着 / イオン会合体 / 濃縮 |
研究実績の概要 |
2011年の福島第一原子力発電所事故によって放出した放射性Cs(セシウム)は、我々の生活を維持する上で大きな障害となっている。掘削除去法による除染により発生する廃棄物量は約2800万 m3(「除染等の措置等に伴って生じる土壌等の量の推定について」 (2011年9月12日)) と量が膨大であるため、管理場所の用地確保が極めて困難な状況にある中、適切な管理・保管のためには汚染土壌の減容化が不可欠となる。放射性物質の中でも、放射性137Csは半減期が30年と長く、土壌から除去された後も長期間的に管理する必要がある。申請者は水溶液中の遊離したCsを錯形成物質により選択的に補足した後、それを小体積のイオン会合体相に300倍に濃縮可能とする手法を見出している(吉岡敏明, 環境放射能除染学会誌, 4, 239-245, 2016)。そこで本研究では先の手法を発展させ、Csを吸着した土壌の減容化を目指し、土壌からCsを脱着し、濃縮する手法を開発する。本研究構想が確立された場合、Csに汚染された土壌が減容可能となるため、仮置き場、中間貯蔵施設ひいては最終処分場の圧迫を大きく低減することが可能となる。また、Csを選択的に濃縮するプロセスが達成することで、他の金属の土壌からの脱着・濃縮に関しても、本手法により得られた知見を応用することが期待できる。本研究はCsを含めた全ての汚染土壌を大幅に減容可能とする斬新な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌に吸着されたCsの錯形成物質による脱着とその脱着反応機構の解明を行った。土壌中に含まれる鉱物種の中でもシリカ群として、石英の非晶質シリカ、アルミノケイ酸塩鉱物として、Cs吸着能が高いことが知られているモルデナイト、A型ゼオライトを選択して実験を行った。まず、まずCs水溶液中に上記の鉱物を入れ、Csを吸着した状態の各鉱物を作成し、吸着等温線から、吸着について考察した。モルデナイトをはじめ、吸着等温線はラングミュアー式に一致し、吸着サイトと一対一で吸着していることが分かった。次に、Csを吸着した鉱物に、Csに対して非常に選択性が高い錯形成物質であるSodium tetrakis (4-fluorophenyl) borate(以降NaTFPB)を用いてCsを脱着実験を行った。具体的には、Cs吸着鉱物にニトロベンゼン有機溶媒に溶解させたNaTFPBを加え、振とう・ろ過後、塩酸を加え、逆抽出を行い得られた水相のCs濃度を原子吸光で測定した。結果、モルデナイトも、Cs脱着が確認された。NaTFPBによるCs脱着の速度論解析を行い、その脱着反応機構について考察を行った。Cs吸着A型ゼオライトからのCs脱着の反応を、Cs吸着A型ゼオライトのNaの再吸着反応と捉え、各速度式モデルにフィッティングを行った結果、本反応系は擬二次速度式モデルに一致し、活性化エネルギーは5.6 kJ/molと求められた。また、活性化エネルギーの大きさから本反応における律速は、物質移動が律速であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
NaTFPBを用いて鉱物から脱着したCsを、イオン会合体相へと濃縮可能とすることである。用いる有機陽イオンと有機陰イオンは、n-Pentylamine(以降PA+)及びPerfluorooctanoic acid(以降PFOA-)を予定している。実験方法は、NaTFPBにより鉱物からCsを脱着後、pH緩衝液及び有機陽イオンとしてPA+を、有機陰イオンとしてPFOA-を入れ、所定時間静置する。次に遠心分離を行い、イオン会合体相の形成を確認する。分相後の水相Cs濃度を原子吸光分析により測定する。濃縮の評価は、抽出率E及び分配比Dによって評価する (式(3)、(4))。 E(%) = DE × ((CW0 ― CW)/CW0 ) (3) D(-) = (DE/100) × CIA/CW (4) (DE:脱着率、CW0:初期水相Cs濃度、CW:分相後の水相Cs濃度、CIA:イオン会合体相Cs濃度) 鉱物を組み合わせることにより実際の福島県における土壌と同じ組成を持つ、模擬土壌を作成し、同様の手法でイオン会合体相への濃縮を検討する。実際の土壌を除染する際、含まれる鉱物の組成やpH、NaやK等のCsと競合するイオンの存在によって、土壌中のCsの挙動が異なる報告がある。そのため、鉱物の混合比が変化することによるCs脱着及び濃縮への影響について検討する。さらに、温度やpH、NaやKのような他の競合イオン、経時変化を調べ、実用化に向け様々な影響を考慮した実験を行う予定である。上記の実験で得られたデータを基にプロセスの最適化及びかかるコストを算出し、本手法の実用性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の研究において当初計画よりも出費が見込まれたため。
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