リサイクル型高度循環製鉄を実現するためには、新たな原理に基づく鉄スクラップ中循環元素の除去方法の確立が必要である。そこで新たに、鉄と不混和な相を連続的に重ねた多重相を用い、その鉄と不混和相に温度と酸素ポテンシャル差を導入することによって循環性元素を選択的に除去する“多重相スルーリファイニング”の原理を創出することを目的とした。“多重相スルーリファイニング”では、Fe(l)-Fe(s)-Ag(l)相の3相共存状態を安定に実現する必要がある。高温電気炉中の温度勾配下において、3相共存状態を実際に作り、温度ごとの各相の関係、循環元素の濃度および分布について調査を行い、最適な条件(各相の温度、相間の温度分布)を決定した。さらに、決定した条件において、Fe(l)-Fe(s)-Ag(l)相を介して循環性元素であるCuの除去を試みた。 上部が低温となる温度勾配がある縦型高温電気炉の内部にFe-Csatd.-Cu合金をアルミナるつぼに入れて設置した。その後Agを添加し、Ar雰囲気においてFe(l)-Fe(s)-Ag(l)相の3相共存状態をつくった。時間を1~30 hの間で変化させて実験を行った。実験後の試料各相中のCu濃度分布とその時間変化を調べた。 Fe(s)中のCuは速やかにAg相へ移動し、それに伴いFe(l)からFe(s)へCuが移動する。Fe(l)-Fe(s)-Ag(l)相を介してのCuの移動はFe(s)中Cuの物質移動律速となることがわかった。Ag(l)中のCuは酸素によって速やかに酸化除去することが可能であり、それに伴ってさらにFe中からAg中へCuが移動する。本手法により、温度勾配を利用してCuの酸化反応が進む温度を下げることで脱Cuが進み、低温側を1400Kに設定した条件において0.12mass%まで脱Cuが可能となることがわかった。
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