本研究は、個人や社会の意思決定の支援を目的に、余命と幸福度の両観点から評価するための方法論を提案するものであり、その適用例として、福島における故郷への帰還と被ばくとのトレードオフの評価を実施するものである。 これまで、(1)現在でも避難している方と比べて、帰還した方のスクリーニング水準を越えた心理的苦痛を抱える人の割合は低かったが、全国値と比較すると高かったこと、(2)帰還するかどうかについて決められない方よりも帰還した方の方が情動的・認識的・心理的幸福度のいずれの幸福度も高く、避難指示解除に関する展望をできるだけ早く提示するといった対策の重要性が示唆されたこと、(3)主観的健康観、心理的苦痛、高血圧、家族との居住状況、世帯内失業者の有無などの要因が幸福度と関連すること、(4) 縦断調査においても、横断調査で得られた帰還と幸福度に関する知見と矛盾しないことが確認されたこと、(5) 情動的・認識的・心理的幸福度の尺度の妥当性と信頼性を確認できたこと、(6)共変量を調整した上で、帰還について決められない、あるいは将来帰還したいという状態から帰還することによる幸福度の向上を算出すると、帰還による幸福度向上は被ばくによる影響よりも大きいこと、などを明らかにしてきた。 2019年度は、17年度、18年度に得られた結果をもとに、当該事業をさらに精緻に効果的に達成するために、論文投稿や学会発表を進めた。国際誌に1報、国際学会での発表を3件(うち、1件はCOVID-19のアウトブレイクによる延期)を行い、順調に研究を進めることができた。とりわけ、ICRPなどの国際会議においても発表しており、広く国際的に知の普及に貢献することができた。
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