研究課題/領域番号 |
17K20074
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
馬場 友希 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (70629055)
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研究分担者 |
坂本 洋典 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究員 (70573624)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 形質介在効果 / 植食者 / クモの糸 / コモリグモ / ウンカ |
研究実績の概要 |
今年度はクモの糸や排泄物が植食性昆虫の行動および植物の摂食行動におよぼす影響を室内実験により検討した。また農地とその周辺環境で得られたクモ・植食性昆虫相を調べる事により、実際に農地で相互作用が生じそうなクモ-植食性昆虫の組み合わせも検討した。 農地に普遍的にみられるハリゲコモリグモと代表的なイネ害虫であるトビイロウンカを実験に用いた。実験の手順は以下の通りである。1) 直径11.5cmのシャーレ内にハリゲコモリグモ1匹と円形のろ紙(直径10cm)を入れ、ろ紙の上に排泄物を排出させたり、しおり糸を引かせた。2) 糸と排泄物の量の違いがウンカの行動に及ぼす影響も検討するため、3日間、クモに糸や排泄物を排出させる処理(短期処理)と、7日間クモに糸や排泄物を排出させる処理(長期処理)の2処理を設けた。3) クモを取り除いた後、クモの排泄物や糸がついたろ紙を半分に切り、同じ大きさの新しいろ紙(コントロール)を直径11.5cmのシャーレに入れて並べ、その境目である中央の位置にトビイロウンカを配置し、どちらのろ紙に長く滞在するかをデジタルビデオで記録した。5時間ほどウンカの行動を観察した結果、短期・長期どちらの処理においても、ウンカがクモが滞在したろ紙を避ける明瞭な傾向は見られなかった。この原因として、実験の試行回数が少なかった事に加え、コモリグモがあまりしおり糸を引かないという実験設定上の問題も関係していると考えられた。今後、実験設定の見直しが必要である。 茨城県・千葉県における水田地帯とその周辺環境を対象に植食性昆虫相を調査した結果、イネの害虫以外に、クロウリハムシやコバネイナゴが多いことが分かった。クモはアシナガグモ類と、ハエトリグモやササグモなど植生上を徘徊するクモ類が多く得られた。この結果を基に来年度は野外で見られる複数のクモや植食性昆虫種を組み合わせた室内実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
クモの活動期に野外でサンプリングができなかったため、実験条件を十分に検討できなかった事が主たる原因である。また実験に用いたトビイロウンカがあまり活発に動かなかったが、これは実験に用いた容器内の環境や実験設定にも大きな問題があった可能性がある。さらに、年度内に研究分担者の所属異動などもあり、研究の議論が十分になされなかった事も理由の一つとして挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はクモの採集や実験システムの設計・構築に使えるまとまった時間がなかった事が研究計画遅延の大きな原因であった。そのため、今年は集中的に実験システムの確立に時間を費やす予定である。また実験に用いたコモリグモは形質介在効果を検証する上で適切でない可能性があるため、今年はアシナガグモ属といった造網性クモやハエトリグモなどアクティブな徘徊性クモを中心に実験を行う予定である。これらの実験で得られたデータを速やかに解析することで、化学分析実験にスムーズに移行できるよう努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験系が確立しなかったために多くの予算を必要とする化学実験用の試薬や試料、そして飼育実験用の備品を購入するための資金等を使用しなかった。今年度はこれらの試薬や備品を揃えると共に、実験をサポートする補助員も雇用する予定である。
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