研究実績の概要 |
本年度は昨年度の進捗の遅れを受けて、植食性昆虫のクモおよびクモ糸に対する忌避行動を調べるための室内実験を行うと共に、その実験結果を基に化学分析により植食性昆虫の忌避行動を誘発するクモ糸由来の化学因子の特定を行う予定であった。 しかしながら、コロナ禍によりクモや植食性昆虫を収集するための野外調査が困難となり、さらに出勤制限により実験室を使用できる機会も限られたため、研究活動が滞った。それに伴い、本課題に関連した学会発表や研究論文の作成なども行う事が困難となった。そのため、昨年度までに野外調査で得た標本の整理や文献情報の整理・レビューなどを主に行った。 レビューの結果、クモの糸の化学組成に関するいくつかの新知見を得ることができた。それらの文献によれば、クモ糸には種特異的な化学物質が見られると共に、クモにはその微妙な化学物質の組成の違いを認知する仕組みが備わっていることが明らかにされていた。その化学物質として、12,20-dimethylnonacosyl methyl ether、8,14,20-trimethylnonacosyl methyl ether、6,14,20-trimethylnonacosyl methyl ether、14,20-dimethylnonacosyl methyl ether(D)などのメチルエーテル類が重要な役割を果たしている可能性がある。これらの物質を害虫に提示し、行動の反応を観察する事で、害虫によるクモ糸の知覚能力を検証する事が可能と考えられる。またレビューで得たバイオアッセイの手法に関する知見は次年度の化学分析を行う際に有用だと考えられた。
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