研究課題/領域番号 |
17K20081
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高田 雄京 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (10206766)
|
研究分担者 |
清水 良央 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30302152)
高橋 正敏 東北大学, 歯学研究科, 助教 (50400255)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
|
キーワード | γ相 / 窒素 / 固溶 / オーステナイト / フェライト / 磁気回路 / レーザー / 組織誘導 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、磁性/非磁性を一体化した小型の磁気回路の開発を試み、組織誘導デバイスや磁性アタッチメントに応用することを進めてきた。昨年度までの成果として、基材となるフェライト系XM27ステンレス鋼を1150℃で窒素固溶処理すると、すべてγ相に変態し、窒素固溶によるオーステナイト化(非磁性化)を定常的に付与できるプロトコルが完成した。 その基材を利用して、レーザー描画を試みた結果、一部融解することで変態が生じ、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得ることが出来たが、融解によって窒素ガスの気泡が発生すること、更に冷却過程で板状試料が変形する問題が生じた。様々な溶接条件の件を試みたが、良好な結果を得ることができなかった。 そこで、令和元年度後半から課題の解決策として、高温マスキング処理を利用した磁性/非磁性ハイブリッド素材を考案した。現在までのプロトコルとは異なり、フェライト系ステンレス鋼の基材の表面に高温マスキング材を塗布し、目的の形状になるように局部的に剥離することで、非磁性にする部分をそのマスキング材に描画する。描画後の基材に窒素固溶処理を施すことで、剥離部のみを非磁性化し、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得る方法である。 そのため、還元雰囲気でも安定で、1150~1200℃の高温で窒素固溶を遮断できるマスクキング材の開発が不可欠となった。エリンガム図から2Pa前後まで安定な大気焼成による酸化皮膜、市販の高温マスキング材、0.1Paの真空中でも安定なクロムの酸化皮膜をマスキング材として選び、高温還元雰囲気での安定姓を調べる実験を行った。5X10-2Paまで真空引きした後、窒素を0.1MPaとした雰囲気中で1150℃に3時間加熱する条件では、5μmのクロム皮膜を900℃で20分大気焼成した酸化クロム皮膜のみが窒素の固溶を遮断で、高温マスキング材の可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
窒素固溶処理後のオーステナイト化した非磁性ステンレス鋼の試料にレーザー照射し、一部融解する照射条件でγ相からα相に変態でき、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得ることができたが、一部融解したことで固溶した窒素が気泡となって現れ、破裂することで薄板に穴が空いてしまう不備が生じた。この対策として、レーザー照射条件をパルス幅、パルス間隔、照射エネルギーをパラメータに定め、照射実験を追加したため、予定の進度からやや遅れを生じることになった。一方、一部融解による変形については、形状によって変わるため、対策を講じる必要が生じた。並行して検討してきた高温マスキング材を利用することで、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得る可能性を見出した。 前述の通り、フェライト系ステンレス鋼の基材の表面に高温マスキング材を付与し、目的の形状になるようにマスキング材に描画する。描画後の基材に窒素固溶処理を施すことで、描画の部分のみを非磁性化し、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得る新しい方法である。この方法においては、高温還元雰囲気においても、窒素の固溶を遮断し、α相からγ相への変態を防ぐマスク処理の併用が不可欠であった。 そこで、当初の計画に加えて、大気焼成による酸化皮膜、市販の高温マスキング材、0.1Paの真空中でも安定なクロムの酸化皮膜をマスキング材として選び、高温還元雰囲気での安定姓を調べる実験を追加し、現在も実験を継続中である。このような状況から、高温で安定、かつ高精細加工の可能なマスキング材の開発も同時進行したため、時間を要し研究計画の見直しが必要となり、計画通りに実験を遂行できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、表面を融解することなくレーザー照射による非磁性から磁性への変態を得ることを計画していたが、表面の極上層部をわずかに融解することで、ようやく窒素放出によるγ相からα相への変態が可能となった。気泡の発生と融解による変形の対策が必要となり、前者については、平成30年度の実験で得た照射条件でほぼ対応できている。一方、変形対策については、一部融解による凝固収縮が原因であるため、その収縮を相殺する方法として、表裏の両者から同じ部位をレーザー照射し、ほぼ同じ凝固収縮を与えて変形を抑制する方針で検討を進めているが、十分成果が未だ得られていない状況である。 そこで、現在までの不具合を改善する方法として、フェライト系ステンレス鋼の基材表面に高温マスキング材を付与し、目的の形状を描画した後、窒素固溶処理を施すことで、描画の部分のみを非磁性化し、磁性/非磁性ハイブリッド構造を得る研究を追加することとした。そのためには、還元雰囲気でも安定で、1150~1200℃の高温で窒素固溶を遮断できるマスクキング材の開発が不可欠となった。 酸化物の生成と酸素分圧の関係を示すエリンガム図から、真空中でも安定に存在できる酸化被膜を推定し、大気焼成によるステンレス鋼の酸化膜とクロムメッキの酸化皮膜を見出した。さらに、市販の高温マスキング材2種を購入し、窒素固溶処理下での安定性を評価することを計画した。酸化皮膜については、酸化皮膜の形成条件である加熱温度、加熱時の酸素分圧、加熱時間をパラメータとして、最適なマスキング材を見出す予定である。市販のマスキング材については、使用に耐えうる結果を得ることができなかったため、再調査することとした。
|
次年度使用額が生じた理由 |
有限要素法プログラムにより、磁気回路のシミュレーションを行っているが、現用の計算機では要素数を増やすことができないため、新規計算機購入に使用する予定であったが、予定よりも低額の計算機で機能したため、購入費が抑えられ次年度使用額が生じた。また、計画していた研究打ち合わせがキャンセルになり、次年度使用額が生じた。 使用計画は、現用のシミュレーションソフトが年更新のため、更新費用に使用する予定である。磁場解析を強化したオプションの購入についても検討している。また、新たに追加した高温マスキング材の開発のために、市販の高温マスキング材の購入費、並びにクロムの酸化皮膜形成のためのクロムメッキ料に使用予定である。
|