研究課題/領域番号 |
17K20082
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺川 貴樹 東北大学, 工学研究科, 教授 (10250854)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 粒子線治療 / ドラッグデリバリーシステム |
研究実績の概要 |
本研究では,X線に比べて腫瘍への線量集中が可能な粒子線治療と,抗がん剤を腫瘍組織に効率的に伝達して抗腫瘍効果を低副作用で誘発するナノサイズ薬剤内包カプセルのドラッグデリバリーシステム(以下DDS)を用いることにより,難治癌に対して従来よりも低線量・低副作用で高い治療効果をもたらす新規化学粒子線治療法の開発を目的としている。本研究で目指すDDSは、放射線照射で内包薬剤が放出される放射線感受性の機能を持ったものである。これにより、陽子線のブラッグピークによる腫瘍部への高線量照射が引き金となって、腫瘍部のみに内包薬剤が放出される粒子線照射誘導放出機能を実現する。 平成29年度では、放射性感受性のDDS開発を実施した。使用する物質はヒアルロン酸を混合させたアルギン酸水溶液である。放射線分解する性質があるヒアルロン酸を用いることで放射線感受性を持たせ、さらにアルギン酸の重合を利用してカプセルを形成する。上記の水溶液を、抗がん剤を添加した塩化カルシウム溶液中に、超音波破砕により噴霧し、放射線感受性を持つ抗がん剤内包カプセルを作成した。作成したDDSの放射線感受性評価、抗がん剤溶出特性を評価するために陽子線照射実験を行った。照射実験は東北大学サイクロトロン・RIセンターのサイクロトロン加速器を使用し80 MeVの陽子線を用いて行った。DDSを含む溶液を封入した容器は水中に設置され、幅2㎝の拡大ブラッグピーク領域で線量条件を変えて照射された。その結果、数Gyから数十Gyの範囲の線量付与で内部の抗がん剤が溶出され、治療レベルの線量でDDSの放射線感受性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
陽子線照射で破壊・薬剤放出するDDSの作成では、ヒアルロン酸0.1g, アルギン酸0.2gを蒸留水8ccに溶解し、抗がん剤としては多くの腫瘍の治療に用いられているシスプラチン(CDDP) 1mg/mL 2cc を添加した。その溶液を塩化カルシウム0.2mol中に、超音波破砕・噴霧し抗がん剤内包カプセル(以下、CDDP-DDS)を作成した。陽子線照射で投与された吸収線量と抗癌剤のカプセルからの溶出度の関係を得るために,水ファントム中に,マイクロカプセル浮遊のTHAM(Tris-hydroxymethyl aminomethane Talatrol R)が入った薄いアクリル容器を設置して陽子線を照射した。水ファントム中の深部線量分布は,80MeV陽子線(水中飛程4.5 cm)を用いて2cmの大きさの癌を想定した2cm幅の拡大ブラックピークの深部線量分布を形成した。陽子線の最大線領域のカプセルに対して治療を想定して,2 Gy, 4 Gy, 6 Gy,・・10 Gyの各線量を、10Gy以上は10Gy毎に100Gyまで線量を付与して抗癌剤溶出度の線量依存性を調べた.また,陽子線の強度は、通常の放射線治療で用いられる2 Gy/分の線量率とした。カプセルから溶液中に放出された抗がん剤の有無を調べるために、照射したCDDP-DDSの浮遊溶液を濾過し、CDDPの構成元素である白金の溶液中での有無をPIXE法で原子分析した。PIXE分析では溶液試料に内部標準元素としてインジウム1000ppmを添加し試料調整し、3MeV陽子線を用いてPIXE分析を行った。その結果、上記の線量範囲で5%から10%程度の溶出率で抗がん剤は放出されていることが確認された。開発したDDSが放射線感受性を有することは確認されたが内包薬剤の溶出率が低く、放射線感受性を高めて薬剤溶出率を向上させることが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
DDS放射線感受性を高め内包抗がん剤溶出の高効率化を図るために、アルギン酸重合をCaではなく一部をFeに置き換えて行う事を検討する。FeはCaと同様にFe2+の状態でアルギン酸を平面的に重合させカプセルを形成するが、陽子線照射により2価のFeから3価のFeに変換されると、平面的なアルギン酸重合構造を維持できずカプセル壁の構造破壊がおこり、内包抗がん剤を高効率で放出させることが期待される。平成30年度前期は上記の改良型DDSを開発し、後期は改良型DDSを用いて担がんマウスによる治療実験を開始する。以下、実験方法についてまとめる。放射線,抗癌剤に一定の抵抗性を持つマウス由来NFSa線維肉腫細胞をC3H/He マウスの両後脚に移植する.マウス腫瘍をCDDP-DDS投与の有無に対応して,比較対照の無治療コントロール群,陽子線単独治療群,CDDP-DDS単独治療群,陽子線とCDDP-DDSの併用治療群に分ける.直径約10 mmの腫瘍塊の形成を確認し実験を開始する.コントロールと有意な腫瘍増殖遅延効果がある陽子線単回照射(15Gy以上),またはCDDPの尾静脈単回投与(初期値 10 mg/kg程度)を行う.陽子線照射の条件は、80 MeVで15㎜幅の拡大ブラックピークを形成した治療用陽子線とし、マウス腫瘍に2Gy/minの線量率で、15Gyまたは30Gyの単回照射を行う。 治療後1日毎の腫瘍体積の計測から腫瘍縮小による増殖遅延を評価し,各治療群における抗腫瘍効果を比較する.また必要に応じて、小動物用超高分解能半導体PET装置を用いて,腫瘍内の糖代謝、低酸素状態等を指標とするPET薬剤を使用し、治療期間中にマウスが生きたまま治療効果を評価し、上記の実験結果を総合し研究総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は本年度予算に占める割合は約0.8%(23,362円)で極めて少額で、全予算、物品費、旅費等の予算計画として精査しきれない額として生じたものである。次年度の当該額の使用計画としては、物品費における実験消耗品の購入に使用する予定である。
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