研究課題/領域番号 |
17K20088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関野 正樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401036)
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研究分担者 |
齋藤 洋一 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (20252661)
熊田 亜紀子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20313009)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 生体制御・治療 |
研究実績の概要 |
神経障害性疼痛には,薬物治療が奏功しないケースがある.患者にとって,日常生活を阻害する痛みの緩和は,切実な願いである.現在,頭部に置いたコイルに電流を流し,発生させたパルス磁場により,脳内の誘導電場によって神経を刺激する脳磁気刺激が,新しい治療法として注目を集めている.磁気刺激による痛みの緩和効果は,1日程度であることが報告されており,自宅でも継続的に治療を受けたいという要望が多く寄せられている.従来の磁気刺激に用いられている刺激コイルは,一次運動野から5mm程度ずれると治療効果が影響を受ける可能性があるため,高価な光学式位置決め装置が不可欠である.研究代表者らが提案するコイルは,Dを2つ合わせた形状からなり,より広い範囲に誘導電場を発生させることができる(ダブルDコイル).本研究の目的は,ダブルDコイルの形状を最適化したうえで試作を行い,コイルが10mm程度の位置ずれを起こしても,脳の一次運動野への刺激効果の変動が抑えられることを示すことである. 広範囲で,十分な誘導電場を発生することができるコイルの形状やサイズを,シミュレーションに基づいて最適化した.コイル形状は,十分な刺激範囲と磁場強度を有した形状とする必要がある.先行研究において,位置ずれ誤差が5mmである在宅用コイル位置決め装置が開発されているが,従来のコイルでは刺激位置が5mmずれると疼痛での治療効果が失われる可能性がある.当該位置決め装置は,安価で在宅向けであるが,位置ずれ誤差のため,従来コイルとの併用に課題が残っている.以上のことから,新規コイルでは,コイル位置が5mmずれても,治療に適した部位を刺激することができるコイル形状をシミュレーションによって探索した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に予定していた内容を,計画通りに実施することができた.シミュレーションにおいては,電磁場のシミュレーションの代表的な手法である有限要素法を用いて,モデル作成と解析を行った.ダブルDコイルにおいて,シミュレーションによって,コイルにより脳を刺激した際の誘導電場の広がりを示し,形状とサイズの最適化を行った.シミュレーションによって最適なコイルのサイズや形状を決定した後,その結果に基づき,新規コイルを試作した.健常者に磁気刺激を行う準備として,コイルの安全性を検証するために,騒音試験,温度上昇試験,漏れ電流試験を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に試作したコイルを用いて,来年度には健常者を対象とした磁気刺激を予定している.測定の際,光学式のコイル位置決め装置を利用するため,測定する被験者のMRIを撮像する.磁気刺激では,駆動回路にMagproCompactを,磁場発生コイルには既存の8字コイルと試作したダブルDコイルを用いる.実験では,脳卒中の後遺症による疼痛を治療する際にターゲットとなる一次運動野の刺激を行い,電気生理学的に,刺激効果の検討を行う.実験プロトタイプは次のように計画している.まず最適な刺激位置を探索するために,運動誘発電位(MEP)を記録し,コイルの出力50%程度で最も大きいMEPを誘発する最適位置を決定する.位置を決定した後,50%の確率で50uV以上のMEPを誘発するコイル出力を探索し,運動閾値を求める.さらに,本研究では,在宅利用でのコイルの位置ずれを吸収することを主目的としているため,コイルが最適刺激位置から半径5mmずれた場合でも,標的部位への刺激効果が維持されるかどうかの検証も行う.実験では,コイル位置決め装置を用いて,最適刺激位置から半径5mmの距離に8点のターゲットを決める.各ターゲットに刺激を行い,その時のMEPを測定し,各ターゲットにおけるMEP amplitudeを従来コイルと比較することで,提案コイルの優位性を確認する.
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