研究課題/領域番号 |
17K20089
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 桂一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00737926)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 光音響 / 光散乱 / 光導波路 / 衝撃波 / 超音波 / 光線力学療法 / 光イメージング |
研究実績の概要 |
バイオメディカル分野において,光は極めて重要な役割を果たしている.光線力学療法,多光子顕微鏡やオプトジェネティクスなどは,今や重要なモダリティとなっている.生体組織は強い散乱体であることは広く知られており,生体内を伝播する光の大きな障害となる.生体は容易に指向性を失い,深部への選択的照射は困難を極める.光バイオメディカル技術に根ざすこのクリティカルな問題を,「音響的光ファイバ」という光伝播をアクティブに制御する新手法により克服する.これにより,上記の光技術の飛躍的な性能向上や,従来の光伝播の常識からは考えられなかった革新的技術の創出を広く促す.これまでに音響光ファイバの実証を行った.生体を模擬した光散乱体ファントムの内部に,屈折率勾配を生み出すための音響波を集光させ,光透過性を検証した.ナノ秒レーザパルスをアキシコンレンズおよび長焦点距離のレンズでフォーカスさせることで,ファントムの周囲に円筒状に光を集光する.集光部位ではアブレーションが生じ,音響波が生成される.発生した音響波は内側に向かって伝播してゆくにつれ強度を増し,最終的には提案手法のような直線状の音響圧力場,すなわち屈折率分布を生み出すことができる.現象を高速度撮影にて解析し,透過光の計測により評価を行った.その結果,光音響波が導波路を形成する約1マイクロ秒の間,優位に光透過率が向上していること,様々な厚みでも同様の効果が得られることが確認された.更にその際の音圧を計測したところ,一般的に用いられているハイドロフォンで検出が困難であるほど小さいことがわかり,生体への影響がほとんど無視できることが示唆されている.以上のように提案通りの高い光伝播制御性および透過性が確認され,現在はアプリケーションを意識したシステムの開発に取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は「光音響ファイバ」という新しい手法の原理実証を行い,考案した通り,散乱体中の光透過率を大幅に向上させることに成功した.理想的な光導波路の形成のために,アキシコンレンズを用いて散乱体の周りに円筒音響波を生成するよう実験系を設計した.ナノ秒レーザパルスをアキシコンレンズ中央に照射し,長焦点距離のレンズでフォーカスさせることで円筒状に光を集光する.溶媒にはカーボンコロイドを含むインクを少量加えることで,光照射領域にてアブレーションを生じさ,音響波を生成する.発生した音響波は内側に向かって伝播してゆくにつれ強度を増し,最終的には提案手法のような直線状の音響圧力場,すなわち屈折率分布を生み出すことができる.ファントムとしては生体散乱を模擬するためにイントラリピッドを皮膚の散乱特性に合わせて配合したゲルを作製し用いた.現象を高速度撮影にて解析し,透過光の計測により評価を行った.その結果,光音響波が導波路を形成する約1マイクロ秒の間,優位に光透過率が向上していることを確認した.更にその際の音圧を計測したところ,一般的に用いられているハイドロフォンで検出が困難であるほど小さいことがわかり,生体への影響がほとんど無視できることが示唆されている.以上のように提案通りの高い光伝播制御性および透過性が確認され,現在はアプリケーションを意識したシステムの開発に取り組んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は生体への適用を考えたアプリケーションを開発する.現在の構成では,光を通したい生体組織が,発生させた円筒状衝撃波の内部に存在しなくてはならないため,適用が困難である.そのため,既存の体外衝撃波装置と同様,楕円柱状の鏡を用い生体内に音響波をフォーカシングする仕組みを現在構築している.また,限られた光導波の持続時間に適用できるよう,パルスレーザを同期させたシステムを開発する.具体的には2台のパルスレーザを同期させ,一方は光音響波用,もう一方はディレイを加え,透過させる光用とする.これらのシステムを原理実証と同じようにイントラリピッドを含んだゲルにて評価する.その後,生体試料へと展開する.初年度の実験において,生体に影響がないと思われる非常に弱い音圧で光導波が可能であることが示されているため,生体試料への照射後,病理診断にて侵襲性を確認することで,その主張をより強固なものとする.一方,生体組織は不均一性を持ち,音響波による光導波路の形成が不完全なものとなる可能性がある.その補正のため,機械学習を取り入れた光波・音響波変調にも取り組むことを考えている.
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