研究課題
本研究は,動物モデルを用いて,視床 (内側膝状体腹側核) の電気刺激による知覚補綴効果を検討するため,視床の電気刺激が聴知覚を生成するか,および,聴知覚を向上させるか,について行動実験と電気生理計測を行った.これまでに,覚醒下で頭部を固定した状態で脳活動を刺激・計測でき,かつ,刺激・計測中にラットに知覚をレポートさせることができる実験系を確立した.今年度は,視床の電気刺激が知覚の生成や調整へ与える影響を調べるために,音刺激による聴知覚をレバー引き行動で報告するよう,ラットにオペラント条件付けを施したのち,音刺激,視床への電気刺激および,それらの同時刺激に対するラットのレバー引き行動を比較した.また,麻酔下で各刺激に対する聴皮質の誘発反応を計測した.その結果,(i) 視床への電気刺激に対して,ラットは有意なレバー引き行動を示し,聴覚野では持続的な電位上昇が認められた.(ii) 音刺激と同時に強い電気刺激を印加すると,レバー引き行動は増え,同時刺激提示から150 ms 後に,聴覚野では陽性の電位変化が認められた.(iii) 音刺激と同時に弱い電気刺激を印加すると,レバー引き行動は減り,聴覚野で有意な電位の変化は認められなかった.これらの結果は,視床への電気刺激が,聴覚野でP3 波と類似した神経活動を介して,聴知覚を生成あるいは促進していること,視床の感覚ゲーティング機能により,視床刺激が知覚に及ぼす影響は,刺激パラメータに強く依存することを示唆する.
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