本研究においては,テラヘルツ時間領域分光システムに偏光分光・円二色性分光を組み込み,それら2種類の分光を高速・同時計測可能なシステムを構築することを目的とした.さらに,生体組織の非侵襲計測において重要な水分子の分子間振動,分子内振動のエネルギー帯とよりオーバーラップの度合いが高い低周波テラヘルツ波の発振を実施し,水分子を含む生体材料の計測を実施することを目的とした.生体組織の非侵襲計測においては,MRI,超音波,X-CTなどのモダリティを用いた研究は多く存在するが,テラヘルツ波を用いた研究は未だ端緒についたばかりである.テラヘルツ波は,遠赤外の領域にあり,生体組織への透過性が良好であり,また光子エネルギーも低い.そして,水分子の分子間振動,分子内振動のエネルギー帯とオーバーラップするため,生体組織の組織形成に関する情報を得ることが可能と考えられる.通常のテラヘルツ波発振は1軸構造PCA(Photoconductive Antenna)を用いて実現するが,本研究では新たに考案した(特願2016-075571)直交2軸構造PCAを製作し,その対向する2対のPCAに高圧・高速変調バイアス発生回路を用いて位相をずらしながらバイアス電圧を入力することでテラヘルツ円偏光波の発振のためのハードを構築した.また,サンプルを透過またはサンプルから反射したテラヘルツ円偏光波を検出するアンテナも新たに考案し(特願2016-075572),高感度電流検知回路と電流電圧回路を組み込み,それらの回路をロックインアンプで制御することでテラヘルツ円偏光波の検出のためのハードを構築した.また,偏光分光・円二色性分光とは別に,低周波テラヘルツ波の発振をアンテナの形状を変えることにより実現した.
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