研究課題/領域番号 |
17K20094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安楽 泰孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (60581585)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 酵素補充療法 / 薬剤送達システム / カスケード反応 |
研究実績の概要 |
酵素補充療法は、体内に足りない酵素を補充することで症状の改善を計る治療法で、疾患部位まで酵素を送り届け代謝を促すシステムを組み込んだ薬剤送達システム(DDS)は、とりわけ副作用の低い革新的治療法として期待されている。酵素補充療法を効果的に達成する為にDDSキャリアには、1. 酵素を失活することなく封入でき、2. 疾患部位に的確に運搬し、3. 標的物質がキャリアを透過し酵素と反応する『反応場』といった一連の機能が必要不可欠である。 我々が開発した生体適合性に優れるポリエチレングリコールとポリアミノ酸由来の荷電性セグメントからなる荷電性高分子の静電相互作用による自己組織化を利用した一枚膜構造のPICベシクルは一連の機能を全て具備しており、酵素を封入したPICベシクルが生体内でナノリアクタとして機能し、疾患部位でクスリを「作る」もしくは有害物質を「分解する」ことに世界に先駆けて成功した。しかしながら酵素反応による生成物の一部が生体内において有害であり、重篤な 副作用を引き起こすことは珍しくない。そこで本応募課題では、疾患の原因物質の酵素分解に加えて、酵素反応によって生じた重篤な副作用につながる有害物質をも別の酵素によって浄化可能な反応場を構築、すなわち2種類の異なる機能を有する酵素を封入した「デュアル酵素封入PICベシクル」を構築し、内水相で高効率に 酵素カスケード反応を誘起することで有害物質を浄化する、副作用の極めて低い酵素補充療法用ナノリアクタを開発することを目的としている。当該年度は、前年度までに基礎物性評価を実施したデュアル酵素封入PICベシクルの生体内における機能評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに高分子の分子設計からPICベシクルの設計、in vitroでの機能評価、血中循環性評価、そして当該年度においてはモデル動物を用いた優位な治療効果及を得ることに成功した。下記に当該年度における特に特筆すべき成果を記載する。 (1) L-アスパラギナーゼ(L-ASP)とグルタミン合成酵素(GS)を封入したPICベシクル(L-ASP/GS@PICベシクル)を尾静脈投与した疾患モデルマウスに、それぞれの酵素の蛍光プローブを投与したところ、血流中においていずれの酵素にも対応した蛍光をin vivo共焦点顕微鏡で観察することに成功した。これは生体内、特に血流中といった厳しい環境において、PICベシクル中に封入した異なる2種類の酵素が機能したことを実証する結果である。 (2) L-ASP、GS、L-ASP+GS、及びL-ASP/GS@PICベシクルを急性白血病モデルマウス(免疫不全移植モデルマウス)に尾静脈し、血液中における対象物質(L-Asn, L-Asp, Gln)定量をLC/MSで、アンモニア定量を生化学自動分析装置を用いて評価したところ、L-Aspでは標的物質L-Asnの量が減少するが副生成物アンモニアの生成が増加していたのに対し、L-ASP/GS@PICベシクルを投与した群においてはいずれも顕著に減少させることに成功した。加えて、L-ASPとGSをそれぞれ投与したマウス群においてはL-ASP単体と比べるとアンモニア量の減少が確認されたが、L-ASP/GS@PICベシクルと比べると血流中におけるアンモニアの残存が確認された。 上記のように本研究では、当初の研究計画に基づいて異なる2種類の酵素の反応場を生体内に構築することで、標的物質を適切に分解することに成功し優位な治療効果を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
上記に記載したように、本研究は当初の研究計画にのとって、当初想定していた以上の成果を得ることができた。今後は、本システムを活用して、上記とは異なるカスケード反応を惹起する酵素を封入したシステムを構築して、本研究で確立したシステムの汎用性の向上を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本補助事業では当初の計画にのっとり、生体内(がん環境)において効率的に酵素カスケード反応を惹起するシステムを確立することに成功している。動物実験において、当初想定していた以上の結果が得られたために、実験の再現性及びそれを踏まえた論文投稿に要する時間が必要となった。再度、モデル動物を準備するのに5ヶ月、成果の論文投稿に2 ヶ月を必要とするために、本事業の延長を希望する。
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