本研究では、多軸の運動錯覚を生じさせるためのシステムを開発することを目的としている。前年度では、手首の伸展方向の運動錯覚を生じさせるために橈側手根屈筋腱に振動刺激を与えるためのウェアラブル刺激装置を開発した。本年度は、進展方向とは逆の屈曲方向の錯覚を生じさせるためのウェアラブル装置の開発を進めるとともに,手首に加えて前腕の運動錯覚を生じさせるウェアラブル装置の開発を進めた。 まず、手首の屈曲方向の錯覚の調査について報告する。手首の場合、進展方向の錯覚を生じさせる屈筋腱群の位置確認は容易であるが、屈曲方向の錯覚を生じる伸筋腱群は同定が困難であった。腱に十分な加振力を伝達するために大型の振動モータを使用して屈曲方向の運動錯覚について調査した。刺激を与える健として尺側手根伸筋腱を選定し、「筋肉の上」、「筋肉と腱の接合部分」、「腱の上」の三か所に対して振動刺激を印加する実験を行った。被験者8人に対して各箇所3回ずつ実験を行った結果、「筋肉と腱の接合部分」が最も高い運動錯覚の生起確率が得られた。 次に前腕の進展方向の運動錯覚について報告する。前腕の進展方向の運動錯覚を生じさせるために、上腕二頭筋腱に振動刺激を印加するためのウェアラブル装置の開発を行うとともに、前腕の運動錯覚量を左手で評価した時の伸展量を計測するために、8台のカメラで構成されるモーションキャプチャー装置を用いた評価システムを構成した。上腕二頭筋腱についても、「筋肉と腱の接合部」、「腱と橈骨の接合部」、「腱の中間点」の三か所に振動刺激を印加して、錯覚量を求めた結果、「腱の中間点」に刺激を一かすると最大の錯覚量を生じることがわかった。また、振動数を変化させる実験も併せ行い、振動数が50Hzとなる振動刺激を印加した時が最も大きい錯覚が生起することがわかった。
|