研究課題/領域番号 |
17K20110
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
弓場 英司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80582296)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | pH応答性高分子 / リポソーム / 多糖 / 樹状細胞 / カチオン性脂質 / 腫瘍微小環境 / がん免疫療法 / 免疫抑制 |
研究実績の概要 |
本年度は、腫瘍免疫抑制解除システムの創出に向けて、免疫抑制性細胞や免疫担当細胞を強力に活性化するためのアジュバント機能分子・ナノキャリア、および抗原デリバリーキャリアのスクリーニングと、in vitroでの機能評価を行った。 1. pH応答性高分子の構造最適化:多糖誘導体の側鎖構造を変化させ、免疫担当細胞の一種である樹状細胞の活性化作用を調べたところ、疎水性の高い側鎖構造を持つ多糖誘導体が、従来よりも数百倍高いアジュバント作用を示すことを明らかにした。また、多糖誘導体修飾リポソームに、抗原提示細胞への特異性を持たせるためにマンノース残基を導入し、免疫細胞によるリポソームの取り込みを有意に高めることに成功し、特許出願を行った。 2. 正電荷脂質と多糖誘導体をハイブリッド化したリポソームの作製:様々な多糖から合成したpH応答性高分子を、正電荷脂質を組み込んだリポソームに修飾し、その物性評価を行った。正電荷脂質の組み込みによって、いずれの多糖誘導体でもリポソームへの結合量が増加し、表面電位がより負に帯電した。得られた多糖誘導体修飾リポソームはpHの低下に応答して内放物を放出した。また、正電荷脂質を組み込んだリポソームによって、樹状細胞による取り込み向上、細胞内への抗原デリバリーを達成した。リポソーム処理した樹状細胞から産生されるサイトカインを調べたところ、真菌由来多糖をベースに合成した多糖誘導体と正電荷脂質を組み合わせた場合に、劇的な細胞活性化作用が確認された。細胞内への抗原デリバリーと、サイトカイン産生の結果を反映して、抗原特異的なT細胞の劇的な増殖が確認され、本リポソームが効果的に免疫応答を誘導できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、pH応答性高分子の構造最適化とそのアジュバント機能評価、ハイブリッドリポソームの作製と物性評価、免疫細胞活性化機能の評価を行い、腫瘍組織の免疫抑制解除システム構築に向けた、基礎的な知見を得た。多糖誘導体の側鎖構造を改変することで、劇的なアジュバント作用を持つ多糖誘導体の開発に成功するとともに、マンノース残基の導入によって、免疫細胞への抗原デリバリー機能の特異性向上も達成された。正電荷脂質を組み込んだリポソームを用いることで、リポソームへの多糖誘導体の結合効率が高まり、それによって抗原デリバリー機能が向上することを明らかにした。さらに、本リポソームが免疫細胞を極めて効率良く活性化することを見出し、それによって、抗原特異的なT細胞の増殖を促進することができた。このように、本年度予定していたキャリア開発については当初の計画以上に進めることができた。 また、腫瘍細胞の培養上清、またはアザシチジンなどの薬剤をマクロファージ細胞株に添加した検討を行ったが、in vitroでの免疫抑制細胞モデルついてはまだ構築ができておらず、より詳細な検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討で、劇的な細胞活性化機能を持つハイブリッドリポソームの構築に成功した。今後は、このハイブリッドリポソームをベースに免疫抑制解除システムの構築を目指す。その検証のために、in vitroにおける免疫抑制細胞モデルが必要であるため、まずはその構築を早急に行う。In vitroモデルが構築できなくとも、担がんマウスモデルを用いて本課題のPOCとなる検討を行い、正電荷脂質と多糖誘導体を組み込んだハイブリッドリポソームの、免疫抑制解除システムとしての機能評価を行っていく。具体的には、ハイブリッドリポソームを腫瘍に局注して、腫瘍組織内の免疫抑制細胞、免疫担当細胞を分析することで、リポソームの投与が腫瘍微小環境に及ぼす影響を明らかにする。さらに、そのがん治療効果を調べ、得られた結果を踏まえてハイブリッドリポソームに用いる正電荷脂質・多糖誘導体の構造最適化を行う。これを繰り返すことで、ハイブリッドリポソームを用いた免疫抑制解除によるがん免疫治療効果の向上、という仮説の実証に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ハイブリッドリポソームの構築、物性評価が中心で、抗体・ELISAキットなどを用いた免疫学的な評価はあまり行わなかったため、当初の予定よりも物品使用額が少額となり、次年度使用額が発生した。 次年度は、今年度実施できなかったin vitro試験、および次年度に当初から予定されている in vivo免疫学的評価を行うため、この次年度使用額と合わせて、計画通り予算を執行する予定である。
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