研究課題/領域番号 |
17K20118
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
川村 晃久 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (90393199)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 幹細胞イメージング / 蛍光共鳴エネルギー移動 / 再生医学 |
研究実績の概要 |
人工多能性幹(iPS)細胞を用いた再生医療などの先進医療の実用化が期待されている。一方で、安全性や医療経済性を考慮すると、多能性の獲得・維持、細胞分化の分子機構を詳細に解明することが必要とされている。我々はこれまで、線維芽細胞からiPS細胞が形成される分子機構を解析し、細胞内代謝、早期マーカーの同定、DNA損傷などに対するストレス応答に関する知見を報告してきた。そこで、本研究では、ストレス応答シグナルをタンパク質キナーゼJNKの活性を指標に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて、一細胞レベルで時空間的に解析する。多能性の獲得(初期化)・未分化性の維持・細胞分化におけるストレス応答の特徴を明確にし、iPS細胞を用いた再生医療の安全性評価の基盤構築を目指し、以下の3つのテーマに沿って研究を着手した。 テーマ1 初期化過程でストレスキナーゼの活性化がiPS細胞形成に及ぼす影響について解析する。 テーマ2 未分化維持と分化過程におけるストレスキナーゼの活性化状態を解析する。 テーマ3 移植した細胞のJNK活性を指標とした、再生医療の安全性評価の基盤を構築する。 初年度は、JNK活性化によってFRETを生じるバイオセンサーを全身に発現するトランスジェニックマウス(JNK-FRETマウス)から線維芽細胞を採取してiPS細胞形成過程におけるJNK活性の状態を1細胞レベルで解析することに成功した。多能性幹細胞で、未分化状態の維持と分化誘導におけるJNK活性の状態をFRETバイオセンサーにより可視化するために現在、JNK-FRETマウスの線維芽細胞からiPS細胞を樹立し解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、JNK活性化によってFRETを生じるバイオセンサーを全身に発現するトランスジェニックマウス(JNK-FRETマウス)から線維芽細胞を採取してiPS細胞形成過程におけるJNK活性の状態を1細胞レベルで解析することに成功した。さらに、ウイルスベクターを用いない初期化誘導法として、テトラサイクリン誘導性初期化因子発現カセットが組込まれた遺伝子改変マウスと先FRETバイオセンサーを発現するマウスを交配した仔から採取した線維芽細胞を用いて同様の実験を施行した。引き続き、テーマ2に向けた研究に着手し、JNK-FRETマウスの線維芽細胞からiPS細胞株を複数ライン樹立した。現在、多能性幹細胞の未分化状態と分化状態におけるJNK活性の状態をFRETバイオセンサーにより可視化し、解析を進めている。上記の理由から、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、JNK活性化によってFRETを生じるバイオセンサーを全身に発現するトランスジェニックマウス(JNK-FRETマウス)から線維芽細胞を採取して樹立したiPS細胞株を用いて、テーマ2の目標である「未分化維持と分化過程におけるストレスキナーゼJNKの活性化状態」を一細胞レベルで時空間的に解析する。さらに、テーマ3では、移植細胞の腫瘍形成のリスクとストレスシグナルに相関があるか否かを検証する目的で、免疫不全マウスを用いた移植実験を行う。すなわち、移植後の細胞でJNK活性を時空間的に解析することで、再生医療の安全性評価の基盤構築を目指す。具体的には次の2つの実験、a) 奇形腫形成時におけるJNKシグナルの解析、b) マウス心筋梗塞モデルにおける心血管系細胞移植後のJNKシグナルの解析、を予定している。前者では、iPS細胞由来の移植細胞の中に未分化細胞が混入することで発症する奇形腫のリスクをモニターする評価系の構築が、後者では、iPS細胞由来の心筋細胞や血管内皮細胞移植において、奇形腫の原因となる微量の未分化細胞をJNK活性の違いにより検出するイメージング系の構築が期待される。
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