人工多能性幹(iPS)細胞を用いた再生医療などの先進医療の実用化が期待されている。一方で、安全性や医療経済性を考慮すると、多能性の獲得・維持、細胞分化の分子機構を詳細に解明することが必要とされている。我々はこれまで、線維芽細胞からiPS細胞が形成される分子機構を解析し、細胞内代謝、早期マーカーの同定、DNA損傷などに対するストレス応答に関する知見を報告してきた。そこで、本研究では、ストレス応答シグナルをタンパク質キナーゼJNKの活性を指標に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて、一細胞レベルで時空間的に解析する。多能性の獲得(初期化)・未分化性の維持・細胞分化におけるストレス応答の特徴を明確にし、iPS細胞を用いた再生医療の安全性評価の基盤構築を目指し、以下の3つのテーマに沿って研究に着手した。 テーマ1 初期化過程でストレスキナーゼの活性化がiPS細胞形成に及ぼす影響について解析する。 テーマ2 未分化維持と分化過程におけるストレスキナーゼの活性化状態を解析する。 テーマ3 移植した細胞のJNK活性を指標とした、再生医療の安全性評価の基盤を構築する。 これまで、JNK活性化によってFRETを生じるバイオセンサーを全身に発現するトランスジェニックマウス(JNK-FRETマウス)から線維芽細胞を採取してUV刺激や薬物刺激によりJNK活性の状態をFRETバイオセンサーにより可視化する実験系を確立した。平成30度は、JNK-FRETマウスの線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、未分化維持と分化過程におけるストレスキナーゼの活性化状態の解析を進めてきた。
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