研究課題/領域番号 |
17K20122
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
梅田 泉 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, ユニット長 (40160791)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 核医学治療 / ラジオセラノスティックス / 放射性核種 / 配位子 / 錯体 / がん治療 |
研究実績の概要 |
核医学イメージング・治療のためには、標的組織に十分量の放射性核種(RN)を集積させるとともに、非標的組織集積を極力低減することが必要である。しかし、これまでの核医学プローブでは、標的指向性物質にRNを直接結合させるため、標的組織に集積するが、腎臓や肝臓などの正常組織集積も高く、その低減は困難であった。本研究ではRNの体内動態を制御できる複数のシステムを組み込むことで、多段階でRNの体内動態を能動的に制御することを試みた。 本年度は、RNの多くが金属イオンであることを利用し、金属イオンと錯体を形成する種々の配位子と、薬物担体であるリポソームをシステムに導入し、RN-配位子錯体をリポソームに封入し、リポソームの送達能を用いて標的に送達し、一方でリポソームが体内で壊れたのちに、錯体の性質で正常組織からクリアランスされることを企画した。治療用核種は入手が困難であるが、今年度はCu-64の供給を受けることができたので、Cuを中心に研究を進めた。昨年度に開発したHPLCを用いたRN、配位子、RN-配位子錯体分離分析法を応用して、リポソーム内へのCu-64錯体封入条件を検討した。Cuに対する配位子としてDOTA、TETA、NOTA、CB-TE2AおよびECを用い、いずれの配位子に対しても良好な封入率でCu-64封入リポソーム調製を可能にした。ただし、CB-TE2AとECではリポソーム内の錯体は不安定であると推察された。これらを担がん動物に投与し、体内動態を検討した結果、腫瘍集積は5-10%投与量/gといずれも良好な結果が得られた。一方、正常組織である肝臓や脾臓への分布は、配位子によって低減できることが観察された。目的とする多段階制御に近づけたと考えている。ただし、Cu-64の場合はCuが必須金属のため、再吸収システムが作用する可能性があり、配位子のさらなる工夫が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はシステム構築や分子設計は計画に沿って比較的順調に進み、実際に治療用核種を用いる検討にまで進んだ。しかし、Cu-64やY-90などの治療用核種供給は研究協力機関の支援によるもので、供給回数や供給時期等に厳しい制限があり、しかもいずれも短半減期核種であることから、実際に実験を実施できる回数が予定よりかなり少なかった。そのために計画に若干の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は実際に治療用核種を用いて実験を実施できた点で、大きな進歩があったと考えている。今後も、回数は少ないながらも治療用核種Cu-64やY-90の供給を受けることが可能なことから、さらにこれらを用いて検討を重ねる予定である。治療用核種と各種配位子の安定性や生体内挙動に関しては未知のことが多く、これを明らかにしつつ、研究目的遂行を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はシステム構築や分子設計は計画に沿って比較的順調に進み、実際に治療用核種を用いる検討にまで進んだが、治療用核種の供給に制限があり、標識方法の検討などに時間を要したことから、計画に遅れが生じた。Cu-64やY-90などの治療用核種供給は研究協力機関の支援によるもので、供給回数は現時点では年に数回に留まる。しかし2019年度も継続的な供給が受けられることから、研究期間を延長して、2019年度に当初の研究計画の遂行する予定である。
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