研究課題
本研究を構成する数値解析・最適化・風洞実験・システム分析の4フェーズのうち、スクラムジェットおよびそれを用いた宇宙輸送システムの様々な部位・側面において、これまでの遺伝的アルゴリズムや代替モデルによる多目的同時最適化に加え、GPU・深層学習といった先進的情報科学技術の積極的導入により、本研究は当初の構想に比して大きく進展した。極超音速で流入する気流を圧縮・減速する役割を果たすインテークに関し、動圧を一定に保ちながら加速上昇する飛行経路において、複数の作動条件を考慮し圧縮効率や抵抗など複数の性能変数に関する多設計点同時最適化を実施し、ロバストなインテーク設計ならびに衝撃波・境界層を含む流れ場に関する重要な知見を獲得した。さらにインテーク流れ場に関して、低次元化や深層学習を適用し、高速かつ高精度の流れ場予測を実現した。圧縮により高温・高圧となった空気に燃料を噴射し着火、燃焼する燃焼器については、噴射孔形状を自由曲線により柔軟に表現し、数値流体解析(CFD)により生成したデータベースで構築したサロゲートモデルを用い、多設計点においてGPU(画像処理装置)を用いた超並列評価により多目的同時最適化を行い、また燃焼器内流れ場について、化学反応モデルの深層学習による低次元化やスクラムジェット・ロケットを統合した複合サイクルエンジンの燃焼モード遷移に関する研究をJAXAや海外の大学と共同で実施し、有益な洞察を得た。また、ロケットブースターとスクラムジェットを用いた完全再使用型宇宙往還機システムを考案し、機体全体に関して空力性能や加熱を考慮した多設計点同時最適化や、打ち上げから上昇加速・分離を経て宇宙空間まで到達するシークエンスについても、空力・推進特性を考慮した飛行経路の多目的同時最適化を実施し、システム全体の成立性に関する検証および分析を行うためのフレームワーク構築に着手した。
2: おおむね順調に進展している
上記の「研究実績の概要」においても記したように、数値解析・最適化・風洞実験・システム分析という4つの主要フェーズのうち、数値解析・最適化・システム分析については、高精度数値解析と遺伝的アルゴリズムを組み合わせ、さらに機械学習・GPU超並列演算といった先端的手法および情報科学技術を活用し、JAXAや海外の大学・研究機関との連携により、研究計画通りもしくはそれ以上に進捗していると考えている。一方で、風洞実験に関しては、九州大学で所有する高速風洞群の高圧空気圧縮機等の修理を含め設備の更新を進めているが、作業が完了するまでは超音速風洞や超音速燃焼風洞は使用できないため、所属機関の設備を用いた実験は実施できない状況で、JAXA角田宇宙センターにおいて燃料噴射混合の実験や、東北大学・豊田工業大学においてそれぞれ弾道飛行装置と超音速風洞を用いた軸対称衝撃波に関する実験を行うなど、共同研究において本研究に緊密に関連した実験を実施している。また、燃料噴射のCFD解析において、燃料の噴射孔において意図する噴射条件である音速噴射になっていないケースがあることが判明し、解析コードの開発元に報告したところ不具合が確認され、現在コードの修正を待ちつつ解決方法の模索と代替アプローチの検討を進めている。上述のような状況を総合的にふまえ、令和2年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
3年目(令和3年度)以降は、これまでに確立したアプローチや構築したフレームワーク、先端的最適化・解析手法および技術を駆使・拡張し、研究計画の完遂および目標の達成、さらに当初の構想以上の成果を挙げることを目指す。機械学習/深層学習により得られた低次元化モデルを用いることにより、(従来のサロゲートモデルによるスカラー量の予測から進展させ)流れ場の高速かつ精確な予測に基づく新しいアプローチによる進化発見的最適化アルゴリズムを開発し、また深層学習の学習結果を用いることによりスクラムジェットの効率的かつロバストな作動に必要な流れ場の条件を供するのに必要な表面形状を推定できる逆設計的手法の開発にも取り組む予定をしている。また、先述した燃料噴射の数値解析における問題について、原因と解決方法の糸口が見つかりつつあるため、早期の究明と克服を急ぐ。風洞実験については、全学からの予算措置を受けて高速風洞群の更新再生を鋭意進めており、令和3年度11月ごろを目処に超音速風洞および超音速燃焼風洞の再稼働ができる見込みのため、それに向けて形状の選定のための最適化や検証用模型の設計・製作を進める予定をしている。また、風洞実験の結果が得られ次第、数値解析の結果と融合できるよう、データ同化を実施するためのコード・ツールの開発を進める。宇宙輸送システムとしての成立性を分析・検証するため、エンジン・機体を含めたシステム全体の統合を進めるとともに、サロゲートモデルに基づくGPUベースのモンテカルロ法による不確定性解析を平行して実施する。
次年度が生じた主な要因としては、超音速風洞・超音速燃焼風洞を含む九州大学所有の高速風洞群の更新再生工事(本研究を開始した当初から故障しており、修理のための予算を全学から獲得した)が大規模かつ新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け時間がかかり、実験関連の備品の調達や使用料が先送りされていること、COVID-19の影響により国際学会が軒並み中止かオンライン開催となり出張旅費が計上されていないこと、また当初計画では雇用予定であった海外からの学術研究員の雇用もCOVID-19の影響や諸事情により難しくなったことがあるが、必要なハード・ソフトの整備により研究をさらに進展させ、また目処が立ち次第、実験関連の機器の購入や運用に使用する予定である。
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