研究課題/領域番号 |
17K20144
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 秀朗 九州大学, 工学研究院, 准教授 (30817565)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙輸送 / 流体力学 / 熱力学 / 最適化 / 機械学習 / 深層学習 / 極超音速 / 空気吸込式推進 |
研究実績の概要 |
スクラムジェットエンジンとそれを用いた宇宙輸送システムについて、遺伝的アルゴリズムや機械学習に基づく代替モデルによる従来的な最適化手法に加え、GPU(画像処理装置)による超並列演算・深層学習といった情報科学分野の技術を融合したアプローチにより、本研究は当初の構想よりも進展している。
極超音速で流入する気流を圧縮・減速する役割を果たすインテークに関し、動圧を一定に保ちながら加速上昇する飛行経路において、複数の作動条件を考慮し圧縮効率や抵抗など複数の性能変数に関する多設計点同時最適化を実施し、ロバストなインテーク設計ならびに性能と物理現象の関連に関する重要な知見を獲得した。圧縮により高温・高圧となった空気に燃料を噴射し着火、燃焼する燃焼器については、噴射孔形状を自由曲線により柔軟に表現し、数値流体解析(CFD)により生成したデータベースで構築したサロゲートモデルを用い、多設計点においてGPU超並列評価により多目的同時最適化を行い、また化学反応モデルの低次元化やスクラムジェット・ロケットを統合した複合サイクルエンジンの燃焼モード遷移に関する研究をJAXAや海外の大学と共同で実施し、有益な洞察を得た。さらにインテーク・燃焼器内の流れ場に関して、低次元化や深層学習を適用し、高速かつ高精度の流れ場予測を実現し、それに基づく性能評価を用いた最適化および感度解析・不確定性解析といった新手法を開発した。
ロケットブースターとスクラムジェットを用いた完全再使用型宇宙往還機システムを考案し、空力性能や加熱を考慮した多設計点同時最適化や、打ち上げから上昇加速・分離を経て宇宙空間まで到達するシークエンスについても、空力・推進特性を考慮した飛行経路の多目的同時最適化を実施し、システム全体の成立性に関する検証および分析を行うためのフレームワークを構築し、ロケットのみを用いた宇宙輸送に対する優位性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を構成する数値解析・最適化・風洞実験・システム分析という4つの主要フェーズのうち、数値解析・最適化・システム分析については、当初の計画通り開発してきた高精度数値解析・遺伝的アルゴリズム・機械学習を融合させたフレームワークにさらにGPU超並列演算・深層学習といった先端的手法および情報科学技術を導入することにより、大規模な最適化や流れ場の直接予測、感度分析といった新しいアプローチが可能となり多くの特筆すべき成果が挙げられ、JAXAや国内の大学、そしてカナダやオーストラリアといった海外の大学との連携により、研究計画通りもしくはそれ以上に進捗していると考えている。
一方で、風洞実験に関しては、課題開始時の令和元年より行なっていた九州大学で所有する高速風洞群の高圧空気圧縮機等の修理を含めた設備の更新に3年の年月を要し、それまでは超音速風洞や超音速燃焼風洞は使用できなかったため、JAXA角田宇宙センターにおいて燃料噴射混合の実験や、東北大学・豊田工業大学においてそれぞれ弾道飛行装置と超音速風洞を用いた軸対称衝撃波に関する実験を行うなど、共同研究において外部設備を利用した実験を実施してきたが、新型コロナウイルスの影響により現地での実験への参加・主導が困難で、また実験に必要なヘリウムガスの調達が難航するといった支障が発生し、進捗に遅れが生じた。
上述のような状況を総合的にふまえ、令和4年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、予定していた目標を達成し研究計画を完遂すべく、これまでに開発したアプローチや構築したフレームワーク、先端的最適化・解析アプローチをさらに発展させ、新たな知見の導出と手法・技術の確立に向けて研究を推進する。
機械学習/深層学習により得られた低次元化モデルを用いることにより、(従来のサロゲートモデルによるスカラー量の予測から進展させ)流れ場の高速かつ精確な予測に基づく新しいアプローチによる進化発見的最適化アルゴリズムを開発し、また深層学習の学習結果を用いることによりスクラムジェットの効率的かつロバストな作動に必要な流れ場の条件を供するのに必要な表面形状を推定できる逆設計的手法の開発を推進する。また、燃料噴射については、深層学習・自動微分を活用した先進的な最適化・感度分析に関する研究を発展させ、衝撃波による燃料混合促進やキャビティを用いた保炎など新たな手法も取り入れ、インテークも同時に考慮した設計最適化と物理現象に関する洞察の獲得を目指す。
風洞実験については、高速風洞群の更新再生が令和3年末に完了し、研究での利用に向けた環境の構築が完了しつつあるため、実験の実施に向けて形状の選定作業や検証用模型の設計・製作、可視化・測定用の機材購入を鋭意進める。また、風洞実験の結果が得られ次第、数値解析の結果と融合できるよう、データ同化・分析を実施するためのコード・ツールの開発を並行して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた主な要因としては、課題開始時より高圧空気圧縮機や乾燥機などが故障し使用できなかった超音速風洞・超音速燃焼風洞を含む九州大学所有の高速風洞群の更新再生工事が大規模かつ新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け時間がかかり、修理後も実験の準備に向けた環境構築に時間を要しており、実験関連の備品の調達や使用料が先送りされていること、またCOVID-19の影響により国際学会は令和4年度末まではほとんど現地で開催されず出張旅費が計上されていないことがあり、次年度は目標の達成に向けて作業を加速させ、実験関連の機器の購入や運用に使用し、国際学会においても精力的に成果を発表する予定である。
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