研究課題/領域番号 |
17K20147
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
久保 郁 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 准教授
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | オプティックフロー / 前視蓋 / ゼブラフィッシュ / 電子顕微鏡画像解析 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
第一に、前視蓋に存在する単眼性および両眼性ニューロンの個々の機能を調べるために、前視蓋領域に存在する神経細胞を遺伝学的に同定できるゼブラフィッシュ系統を候補としたカルシウムイメージングを開始した。前年度までに、前視蓋領域で転写因子Gal4を発現するゼブラフィッシュ系統群を同定していたが、本年度はこれら候補系統をUAS : GCaMP6s系統と交配することで、GCaMP6sを発現する稚魚を得た。このGCaMP6s発現稚魚に単眼性および両眼性オプティックフローから構成される視覚刺激を提示し、それと同時に二光子顕微鏡を用いて神経活動のイメージングを行なった。その結果、いくつかの候補系統では、単眼性オプティックフローに選択的に反応する神経細胞が標識されていることが分かった。 第二に、前視蓋に存在するオプティックフロー反応細胞の神経ネットワークを明らかにするために、解剖学的な解析を行った。前年度までに取得していた電子顕微鏡画像データを用い、本年度はオプティックフロー反応細胞の神経突起の再構築を完了した。その結果、多くのオプティックフロー反応細胞は、前視蓋の神経繊維領域に密に軸索および樹状突起を伸ばし、さらにいくつかの細胞は交連性の軸索を伸ばしていることが明らかになった。さらに、オプティックフロー反応細胞同士が直接シナプスを介して連結しているかどうか明らかにするために、すでに再構築した神経突起上に見られる前シナプス構造・後シナプス構造を画像解析により同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、前視蓋領域の一部で発現するGal4系統を用いたイメージングから、オプティックフローに対して反応する前視蓋ニューロンのサブタイプを遺伝学的に標識する系統を同定することに成功しており、当初の計画通り順調に進展していると言える。次年度は、これらの系統を用いて、特定の前視蓋ニューロン群の機能阻害実験を行うことにより、オプティックフロー依存的な行動における機能的意義を調べる予定である。解剖学的アプローチにおいては、電子顕微鏡画像データを用いたオプティックフロー反応細胞の細胞形態とシナプス構造の再構築をほぼ完了することができた。これまで、前視蓋で見られる両眼性の反応を生み出すためには、特定のオプティックフロー反応細胞が正中線を交差する交連性軸索を持つことが理論上予測されていたが、本年度得られた電子顕微鏡画像データ解析から、この交連性軸索の存在を直接示すことができた。このような電子顕微鏡画像データの解析は、シナプスを介した直接の神経接続を同定できる数少ない手法の一つであるため、オプティックフロー情報処理を制御する神経ネットワークをシナプスレベルの高解像度で解明するのに重要な解析結果を生み出したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
前視蓋領域に存在する神経細胞を遺伝学的に同定できるゼブラフィッシュ系統を用いて、全ての系統についてカルシウムイメージングを完了し、どの細胞タイプがどのオプティックフロー視覚刺激に対して反応するのか明らかにする。さらに、これら候補系統のうち、特定の反応タイプを特異的に標識する系統については、標識される細胞の消失あるいは機能阻害を行うことにより、オプティックフロー依存的な行動にどのような影響が見られるのかについて調べる(遺伝学的解析)。電子顕微鏡像データの解析については、これまでに再構築した神経突起パターンおよびシナプス部位のデータに基づき、前視蓋ネットワークにおけるシナプスを介した直接的な相互神経接続パターンの解析を進める(解剖学的解析)。また、近年開発されている画像レジストレーション技術を用いて、光学顕微鏡・電子顕微鏡レベル両者のデータを重ね合わせることを試み、相互補完的である遺伝学的解析と解剖学的解析を統合し、より多角的に前視蓋ネットワークを解明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は博士研究員の雇用を予定していたが、適切な人材が見つからなかったため、研究補助員の雇用に変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に物品費として使用する。研究内容自体の変更を伴うものではない。
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