研究実績の概要 |
前視蓋には、オプティックフロー視覚刺激に反応する様々なタイプの単眼性および両眼性ニューロンが存在する。オプティックフロー情報処理においてこれらの異なるタイプの細胞がどのように機能しているかを調べるために、前視蓋神経細胞の一部を遺伝学的に同定できるゼブラフィッシュGal4系統を選抜し、これら候補系統を用いて二光子顕微鏡による神経活動のカルシウムイメージングを行った。その結果、候補Gal4系統のうちの二系統は、単眼性オプティックフローに反応する神経細胞を標識していることが分かった。そのうちの一系統は、細胞体が前視蓋領域の腹側部に位置していること、およびオプティックフロー視覚刺激に反応したから、この系統において標識される細胞は、最近申請者らがイメージングにより同定した新規のオプティックフロー反応細胞群と一致すると考えられた(Wu et al., Neuron, 2020)。この系統を用いることで、この新規細胞群の機能解析を行うことが可能となり、このような解析を通して単眼性・両眼性ニューロンの機能的差異や相互作用に新たな知見をもたらす事が期待される。 さらに、オプティックフロー反応細胞の解剖学的な神経ネットワーク解析を行った。第一に、光学顕微鏡を用いた解析を行い、多くのオプティックフロー反応細胞は、前視蓋の神経繊維領域において密に神経突起を伸ばすことを示した。さらに、単眼性ニューロンと両眼性ニューロンは互いに異なる神経突起投射パターンを示すことを明らかにした(Kramer et al., Neuron, 2019)。第二に、電子顕微鏡画像データを用いてさらに微細な神経投射パターンを解析した結果、多くのオプティックフロー反応細胞は交連性の軸索を持ち、シナプスを介して直接神経接続していることが明らかになった(投稿準備中)。 これらの機能的および解剖学的アプローチを用いた相補的な解析は、オプティックフロー情報処理の神経ネットワークメカニズムに関する重要な知見をもたらしたと言える。
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