研究課題
本研究の目的は、幹細胞の運命制御に与る分子機構を明らかにすることである。幹細胞は、多分化能を保持しながら増殖できる自己複製能を持つ特殊な細胞で、成体においては常に成熟細胞を供給することで組織恒常性の維持に寄与する。一方、腫瘍組織にも自己複製能、分化能の異なる複数種のがん細胞が存在し、正常組織に類似した階層性を持つことが明らかにされた。特に、自己複製能を持つ「がん幹細胞」は、治療抵抗性や病期進行、転移、再発に必須であり、有効な治療標的である。すなわち、幹細胞性を支える分子機構の理解は健常組織とがんの生物学の双方において重要であり、研究代表者は白血病のがん幹細胞を対象とした研究からその解明を目指している。私たちはある種の細胞内アミノ酸代謝酵素や細胞運命制御因子が白血病幹細胞の維持に必須であること、また両因子の発現がRNA結合タンパクMSI2によって制御されることを明らかにした。本研究ではこのRNA結合タンパクの分解が幹細胞機能の制御にどう関与するかを解明する。昨年までにMSI2の限定分解部位を質量分析法により決定した。今年度は部位特異的変異導入法によって複数の変異体タンパクを作成し切断の有無を解析した。また切断活性が細胞内のどのコンパートメントに存在するか、また切断活性の熱安定性や核酸要求性等を解析した。これらの性状解析の結果に基づき、来年度は切断活性を担う因子の単離精製を目指す予定である。
2: おおむね順調に進展している
前年度は、米国の前所属機関から京都大学への移転と適切な研究環境の整備を行い、切断部位の同定に成功した。今年度は研究開始直後はパンデミックの影響により研究中断を余儀なくされたが、夏以降に実験を再開した。昨年度同定した切断部位近傍のアミノ酸を変化させた変異体MSI2タンパクを部位特異的変異導入法によって作出し、これらの被切断の有無を解析した。また、組み換え体MSI2タンパクと細胞抽出液を試験管内で混合しても同じ部位で切断が生じる系を構築できたので、これを用いて切断活性の熱安定性や補因子要求性について検討を行った。また、切断活性を有する細胞株から細胞内成分を分画して調整し、主に核内に切断活性が存在していることを見出した。また、マウス個体を用いた白血病モデルの作成にも着手しており、研究は順調に進展している。
来年度は確立した試験管内アッセイを用いて切断因子の分離精製を行いその分子的実態を明らかにする実験を行うとともに、当初の計画に従って解析を進めていく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
Nature Communications
巻: 11 ページ: 5998
10.1038/s41467-020-19782-x
Analytical Methods
巻: 12 ページ: 2555-9
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