本研究では,脳の情報処理過程における学習・記憶,超並列,自律分散といった様々な原理に基づく柔軟かつ複雑な処理をハードウェアアルゴリズムとして実装することにより,高次の処理を極めてコンパクトなシステム構成で実現することを目指す.特に本研究においては,脳の可塑性(環境適応性)と呼ばれる機能にヒントを得,従来の延長上にない知的環境適応型新概念LSI設計技術の確立を到達目標とする. 本技術の実現においては,入力情報を適切に処理する計算アルゴリズムのみならず,本アルゴリズムを如何にしてコンパクトかつ低消費電力なハードウェアとして実装するかが重要な課題となる.そこで,本年度は,省電力性および高性能性と,多様な環境における安定動作の両立が求められるエッジデバイスへの実装を念頭に置いた,知的環境適応処理向け回路技術について研究を推進した. 情報の量子化技術および不揮発回路技術を用いることにより,従来のCMOSを用いた回路構成と比較して高いエネルギー効率を有する脳型計算向けハードウェアの実現を可能にする要素回路を設計し,回路シミュレーションによる性能評価を通して,その有効性とさらなる高性能化に向けた課題を明らかにした.また,環境変動や素子特性の変化によって生じる性能ばらつきを抑制するための回路技術についても並行して研究を推進し,具体的応用事例におけるその有効性を評価した.さらに,エッジデバイスへの省電力なハードウェア実装に必須となる不揮発パワーゲーティング技術を高信頼に実現するための回路技術についても検討を行い,従来技術と比較して高信頼な動作を小さなオーバヘッドで実現可能であることを示した.
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