研究課題/領域番号 |
17KK0003
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00596497)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | コグネティクス / ロボティクス / ハプティクス / バーチャルリアリティ / 認知神経科学 |
研究実績の概要 |
2018年度は,実際に海外共同研究者の所属機関(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)に赴き,コグネティクス(Cognetics)に関わる本研究課題を円滑にスタート・遂行するための準備を主として行った.
まず海外研究機関でのコグネティクス研究について,基課題(若手研究(A):2014年度~2017年度)において申請者が開発した実験システムを用いて,既に海外共同研究者が健常者と精神・神経疾患患者の両方を対象としたFull Body Illusion(FBI)およびPresence Hallucination(PH)に関する心理学行動実験および認知神経科学実験を始めていたため,技術的なサポート・改良を加えつつ,その主要因・基本メカニズムに関する議論を行った.具体的には,実験システムに力測定などの機能を付け加えてFBIやPHに対して新たな実験や解析を可能するとともに,これまでに得られた実験結果・成果についての情報共有を行った.また,PHおよび運動主体感(Agency)の実験的操作などに関する新たなプロジェクトも複数計画し,現在はその実験システムの開発を海外共同研究者の意見を取り入れつつ行っている.
一方,国内でのコグネティクス研究の成果としては,例えば,Self-Tickling(自分自身でくすぐりを行ってもあまりくすぐったさを感じない状態)において,身体に与える力と与えられる力を独立して操作できる実験システムを開発し,Self-Ticklingにおける力フィードバックの役割について検討した.その結果,Self-Tickling状態になるためには力の一致が必ずしも必要ではないことを示唆した.また,コグネティクス研究の適用分野の拡大にも挑戦し,理学療法学研究者と共同でロボティクス,ハプティクス,バーチャルリアリティ技術を用いたヒトの運動学習や摂食・嚥下機能に関する新しい研究も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,コグネティクス(認知神経科学×工学)に関わる国際的かつ学際的研究を推進・加速するものであり,その遂行には海外共同研究者の所属機関に申請者が長期滞在して,基課題において開発した実験システムを用いて現地の専門家と共に実験・議論を行っていく必要がある.
そこで2018年度は,日本でのコグネティクスに関わる研究を継続しつつ,12月から実際に海外共同研究者の研究室があるジュネーブに赴き,現地での研究環境の整備・改善を主に行った.本研究課題で核となる実験システムは,これまでに何度か現地に赴いて既にセットアップしていたため,多くの機材を日本から持ち込むことなく研究環境の整備を円滑に行うことができた.また,海外共同研究者は申請者の渡航前から本研究課題に関わる心理学行動実験および認知神経科学実験を始めていたため,大きなアドバンテージがあるものと考える.現在いくつかの成果は国際共著論文として投稿中・準備中であり,したがって海外での研究推進であるにも関わらず良いスタートを切ることができたと言える.また,日本でのコグネティクス研究についても,身体認知に関わる新たな知見を得ることができ,さらにはコグネティクスを拡大した新たな共同研究を始めることができた.
以上のことから,本研究課題は当初の研究計画に従って概ね順調に進んでいるものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究では,引き続き海外共同研究者とともに健常者および精神・神経疾患患者の両方で身体認知に関わる実験をスイスで行い,その主要因および基本メカニズムについて学際的な観点から検討を行っていく.また,2018年度に新たに計画・開始したプロジェクトの推進も加速させていくことを考える.
まず身体錯覚・身体所有感研究について,引き続きPHや他の身体錯覚発生の主要因を検証しながらその基本メカニズムを明らかにしていくことを行っていくとともに,2018年度までに得られた成果をまとめて国際共著論文として公表することを目指す.また,PHに関する新しいプロジェクトでは,これまでに開発してきた実験装置が利用可能なので,その実験システムを早い段階で構築し,海外共同研究者と実験プロトコルを策定してパイロット実験によりその有効性の確認を行う.運動主体感の実験的操作に関する新しいプロジェクトについても,2018年度に設計が大体完了したロボットの作製を早急に進めつつ,それを組込んだ実験システムを用いた新しい研究・実験計画を行う.
また上述の国際共同研究とともに,日本でのコグネティクス研究も精力的に進めていく予定である.例えば,Self-Ticklingの研究をさらに発展させ,その知見を用いた新たな感性認知支援システムの開発について考えるとともに,2018年度に新たに開始した理学療法学研究者との共同研究についてもSkypeなどで連絡を密に取りつつ推進する.これにより,国内外でのコグネティクス研究のさらなる加速・強化および拡大に貢献することを目指す.
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