Heron博士らは,時間再生課題にあたって,異なるタイプの運動応答 (キー押し/発声) をそれぞれ異なる事前分布に割り当てることにより,それらの事前分布の学び分けが可能となることを明らかにした (運動特異性).本研究は, Heron博士らとともに,その「運動特異性」を手がかりに複数の事前分布の学び分けを可能とする心理物理学的機序とその神経基盤の探求を進めた. 主な研究成果の一つとして『身体部位特異性』の発見が挙げられる.参加者はキー押しによる一致タイミング課題を行った.そこで,短時/長時の二つの事前分布のそれぞれに対して異なる身体部位で応答すると,キー押しという単一の運動のみを用いながら,それらの事前分布を学び分けることができた.さらに人差し指/中指のように近接した身体部位よりも,手/足のように遠隔の身体部位を事前分布に対応づけた方が,より早く二つの事前分布を学び分けることができた. 動作選択性と時間調整機能を併せ持つことから,補足運動野 (SMA) が運動特異性の神経基盤であることが提唱されていた.上記の実験は,そのSMAが身体部位再現性も有していることに基づき計画された.すなわち,『身体部位特異性』の発見により,SMA仮説が支持された. さらに,補足運動による事前分布の学び分けの促進効果を明らかにした.たとえば,利き手で一致タイミング課題を行っているとき, 2つの事前分布のうちの一つに対して,非利き手による運動応答を補足すると,それらの事前分布の学び分けが促進された. SMAには,片手運動 (=補足運動なし) と両手運動 (=補足運動あり) のそれぞれに対して選択的に活動するニューロンが存在する.上記の補足運動を用いた実験は,この知見に基づき計画された.すなわち,この成果により, SMAを事前分布の学び分けの神経基盤とする説がさらに支持された.
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