研究課題/領域番号 |
17KK0006
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
中嶋 秀朗 和歌山大学, システム工学部, 教授 (30424071)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2021
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キーワード | パーソナルモビリティ / 電動車いす / 安全性 / 移動性能 / ヒューマンマシンインターフェース |
研究実績の概要 |
誰もが気軽に乗れる徒歩移動圏での小型の乗り物(パーソナルモビリティビークル,以下PMV)の開発により,移動に不自由がある人(足の不自由な障害者,高齢者など)のQOLも向上する.そのようなPMVに求められる機能は,徒歩移動圏に存在する段差や傾斜などへの対応と,移動の大半を占める舗装路面上でのエネルギ効率と高速性能の高さである.その上で,安全性向上が実用への最大の課題である.本研究課題では,上記のようなPMVを実現するための基盤的な要素技術開発に取り組んでいる.本年度は次の課題に取り組んだ. ①共同研究先での在外研究の実施:生体信号情報をPMVに融合したシステムにできるかを検討するために,世界最先端レベルの知見が集積しているETH ZurichのSensory-Motor Systems Lab.に赴き,コロナ禍であったが,在外研究をほぼ予定通り2020年3月~2021年3月の1年間実施した. ②PMV自体の移動性能の向上:移動エネルギ効率と高速性の可能性が高い4車輪型の移動体を前提にしつつも,連続的な階段段差にも対応できる移動アルゴリズムを提案,実証した.成果を学術論文にまとめた. ③研究開発した技術の検証:コロナ禍であり国際大会に参加すること自体がハードルが高かったが,実際の車いすユーザが競技者(操縦者)となり,開発したPMVで国際競技会であるCybathlon 2020に出場した.移動性能を実証し,また,世界4位の実績を残した. ④安全性向上のための要素技術開発:多機能なPMVに特有なモード遷移時の安全性向上のためのヒューマンマシンインターフェース技術,PMVの知能化(自動運転化)による操縦補助技術,あるいは車いす搭乗者の計測システムの基礎的開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①在外研究の実施:ETH ZurichのSensory-Motor Systems Lab.に2020年3月~2021年3月までの1年間赴き,在外研究を実施した.コロナ禍で厳しい研究環境ではあったが,ほぼ予定通りの日程で在外研究を完遂した.当初PMV搭乗者の生体信号を安全性向上のために活用することを検討したが,即応性,分解能,信頼性,ノイズの面で最先端の技術を用いても実用面では課題が大きいことがわかった.この結果から安全性向上の要素技術開発として④にも取り組んだ. ②PMV自体の移動性能向上:移動エネルギ効率と高速性の維持に関しては,PMVの実用性の観点からは必須であるため,4車輪型の移動体を前提に,連続的な階段段差にも対応できる移動アルゴリズムを提案,実証した.動物の歩容でいうペース歩容に似た方法での階段移動方法を学術論文で発表し,また,車輪を最大限活用した移動方法と上記歩容を使い分ける階段移動戦略を国際会議で発表した. ③技術の検証:障害者がアスリートとなる国際競技会Cybathlon 2020に,開発したPMVで出場した.当初2020年5月にスイスにて開催予定だったが,コロナ禍により数回の開催方式変更の後,11月にオンライン技術を活用して開催された.数度の開催方式の変更にも粘り強く対応し,無事に参加までたどり着いた.結果は世界4位で,開発したPMVの性能を実証した. ④安全性向上のための要素技術開発:①の状況から,生体信号の活用を前提としない高安全なPMVのための人間と機械のインターフェースという観点に方向修正した.具体的には,多機能PMVに特有なモード遷移時の安全性向上のために情報提供を活用したヒューマンマシンインターフェース技術の開発,事故減少に通じるPMVの知能化システムの構築,そして,車いす搭乗者をモニタリングし居眠りなどを防ぐ計測システムの基礎的開発に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍にも関わらず,2020年度に共同研究先(ETHのSensory-Motor Systems Lab)にて在外研究を無事に完遂した.また,国際競技会Cybathlon 2020にも無事に参加し,開発した機体の移動性能の実証を行いつつ,実績を残した.その一方で,研究を進める中で理解が進んだ,安全に関わる部分での生体信号のリアルタイム活用における課題点により,新たな角度からPMVの安全性向上に取り組み始めたのが現状である.コロナ禍でなければ,軌道修正した取り組みに対しても,国際会議参加や研究室訪問などを積極的に行い知見を広げたかったが,対外活動に対しては物理的,精神的にも制約が大きかったため,研究室訪問などの活動は制限された.その面を今年度は補完できるようにしたい.そのためにも,PMVの性能向上,ヒューマンマシンインターフェースに関して,今年度の成果を整理し,学術論文や国際会議論文として投稿する予定である. また,状況を見ながらにはなるが,国際的なネットワークの構築という意味でも関連研究の世界レベルの研究室訪問を行い,知見を広げたい. さらに,④の安全性向上のための要素技術開発の面では,不整地移動時のPMVの姿勢のぶれや動きを模擬するために,移動時の胴体部の揺れがPMVよりも大きい脚型ロボットあるいは路面形状の影響を直接受けやすいクローラ型ロボットを用いての搭乗者計測や周囲環境計測の模擬システム構築にも着手したい. なお,コロナ禍により,予定していた代替要員や交通費の見直し,各種オンライン化による研究支援員などの見直し,あるいは,対外活動の制限などにより生じた研究費残額を今年度の研究活動全般に使用予定である.
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