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2020 年度 実施状況報告書

海氷・海洋結合データ同化システムを用いた極域海洋における基礎生産の予測可能性研究

研究課題

研究課題/領域番号 17KK0014
研究機関国立研究開発法人水産研究・教育機構

研究代表者

中野渡 拓也  国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(釧路), 主任研究員 (20400012)

研究期間 (年度) 2018 – 2021
キーワード北極海 / 海氷 / 低次生態系モデル / 北極低気圧 / 予測可能性 / オホーツク海 / 鉄 / 長期変動
研究実績の概要

本年度は、海氷融解期における基礎生産量の中期予測精度を決定する要因を明らかにするために、北極海の海氷・海洋結合データ同化システム(TOPAZ4)と低次生態系モデル(ECOSMO-II)を用いた2週間予報実験データの解析を実施した。2017年8月に発生した北極低気圧(AC)イベントの事例に着目して、基礎生産量の予測精度に対する北極低気圧の影響を評価した結果、基礎生産量の予測精度はACイベント後に氷縁付近で著しく低下することが分かった。ACイベントが予測される場合では、基礎生産量がおよそ2倍程度増加していたのに対して、氷縁近傍では逆に減少していた。基礎生産量を規定する要因として、海水混合に伴う栄養塩供給プロセスの影響を診断的に調査した結果、基礎生産量が増加していた海域では混合層の深化に伴い表層で栄養塩濃度が増加していた。このことは、低気圧の発生時に生じた風による混合によって下層からの栄養塩の供給が基礎生産量を増加させていたことを意味する。この結果は、北極低気圧などの極端な気象現象が増加すると、正味では海氷域における基礎生産量が増加することを示唆する。
また、オホーツク海、及び北太平洋亜寒帯域における基礎生産量に対する海氷生成・融解プロセスの影響を定量的に評価するために、基課題で整備した北太平洋渦解像低次生態系モデルを用いた過去37年間(1980-2016年)の経年変動データの統計解析を実施した。栄養塩の取り込み速度(ガンマ)に基づいて、基礎生産量の長期変化傾向を調べた結果、親潮海域を含む北太平洋亜寒帯域の広い範囲において、ガンマが有意に減少(平年値の約8%)していることを示す結果が得られた。また、北太平洋亜寒帯フロント域におけるガンマの低下には、微量金属元素である溶存鉄濃度の減少に加えて、主栄養塩であるリン酸濃度の減少も関係していることが確かめられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当該年度計画通り、北極海海氷・海洋結合データ同化システム(TOPAZ4)に結合した低次生態系モデル(ECOSMO-II)を用いた2週間予測実験データの解析を実施し、海氷融解期における基礎生産量を決定する要因として、従来から指摘されている海氷融解水や日射による海洋成層構造の発達や光環境の改善の影響に加えて、北極低気圧の発達に伴う強風が駆動する鉛直混合による栄養塩供給プロセスが実質的な役割を担うことを明らかにすることができた。また、昨年度実施した北極海の夏季における海氷のアンサンブル予報実験の解析をさらに進め、大気のアンサンブル予報データを用いる場合、従来の予測手法に比べて1週間先の海氷の予測精度が向上することが明らかになった。この海氷アンサンブル予報実験で得られた研究成果については、学術論文として取り纏めるべく論文執筆に着手するに至った。一方で、本年に実施する予定だった低次生態系モデル(ECOSMO)を用いた追加の数値実験については、新型コロナウィルスの影響で渡航することが出来なかった為、一部実施することが出来なかった。
さらに、北太平洋低次生態系高解像度モデルを用いた数値シミュレーションのプログラムに不具合があることが判明した為、一部の数値実験シミュレーションの再計算を実施することによって本年度得られた結果の妥当性を評価する必要性が生じた。

今後の研究の推進方策

次年度は、北極海における海氷融解期の基礎生産量の予測誤差に関わる物理過程の一般性を確かめるために、本年度実施できなかった北極低気圧の他の事例に対しても低次生態系モデル(ECOSMO-II)を用いた2週間予測実験を実施しする。そのため、研究期間を1年延長し、オンライン会議システムを用いて共同研究者間で密に連絡を取り合うと共に、現地サーバーへのリモート接続を活用することによって効率的に研究を進める。
オホーツク海、及び北太平洋亜寒帯域における基礎生産量の長期変動に対する海氷生成・融解プロセスの影響については、基課題で整備した北太平洋渦解像低次生態系モデルによる追加の数値実験、及び出力データの解析を継続的に進めることによって、亜寒帯フロントやオホーツク海における基礎生産量の長期変化メカニズム(特に、栄養塩輸送の物理プロセス)とその要因の理解をさらに深めていく。得られた研究成果は、速やかに国内外の学会で公表し、学術論文に取り纏める。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 学会発表 (3件) 図書 (1件)

  • [学会発表] 海洋‐海氷結合オホーツク海領域モデルに現れる宗谷海峡の流速の日変動と北海道沿岸の海氷分布との関連性について2021

    • 著者名/発表者名
      佐伯 立, 三寺 史夫, 中野渡 拓也, 黒田 寛, 岩本 勉之
    • 学会等名
      紋別流氷シンポジウム2021連携学術セミナー
  • [学会発表] 初冬チュクチ海の海氷拡大遅延の要因とその予測可能性2020

    • 著者名/発表者名
      中野渡拓也, 猪上淳, Jinlun Zhang, 黒田寛
    • 学会等名
      日本海洋学会
  • [学会発表] Tidally-modified western boundary current drives crossing straits exchange transport2020

    • 著者名/発表者名
      周宏偉, 三寺史夫, 山 崎開平, 中村知裕, 川崎高雄, 中野渡拓也, 西川はつみ, 佐々木英治
    • 学会等名
      日本海洋学会
  • [図書] Changing Asia-Pacific Marginal Seas2020

    • 著者名/発表者名
      Takuya Nakanowatari, Humio Mitsudera
    • 総ページ数
      320
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      978-981-15-4885-7

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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