研究課題/領域番号 |
17KK0015
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
赤田 尚史 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 教授 (10715478)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2022
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キーワード | 宇宙線生成核種 / トリチウム / ベリリウム / マルチアイソトープ |
研究実績の概要 |
本研究では、成層圏-対流圏の気体交換が活発であり、かつトリチウム濃度が極めて低い海水起源水蒸気の影響を受けにくい中緯度ヨーロッパ内陸地域において物理形態に分け大気観測を行い、トリチウム以外の宇宙線生成核種や210Pb、210Po、222Rn 等の天然放射性核種の測定を行う。半減期や滞留時間の異なる放射性核種の存在比を組み合わせることで「天然起源トリチウムを追跡するためのマルチアイソトープ手法の確立」を目指すことを目的としている。 本年度も、昨年度と同様に新型コロナウイルスの影響により渡航することはできなかった。そのため、渡航先でスムーズに測定結果を計算できるように、天然物質を用いたBe-7二次標準試料の作成法に関する検討を実施した、大学屋上において降水を大量(100L程度)に採取し、Fe共沈法により降水試料中Be-7を回収した。これを、遠心分離により回収し、Ge半導体検出器を用いて値付けを行った。一方、フィルター上に捕集されたエアロゾルのBe-7濃度を求めるためには同形状の標準線源を作成することが望まれる。そこで、フィルター上に沈殿物をろ過法により捕集し、乾燥することで線源を作成した。その結果、手作りのBe-7二次標準試料は十分使用できることが確認できた。 一方、渡航先のハンガリーを含むヨーロッパ地域では化学物質規制の影響により現在使用しているトリチウム分析に必要なシンチレーションカクテルが使用できなくなる可能性がある。そのため、代替シンチレーターの検討を実施した。その結果、1種類のシンチレーターが既存のもの同程度の性能であることが確認できた。 更に、ハンガリーで使用予定の低バックグラウンド液体シンチレーションカウンターと同じ装置を用いて装置の性能評価手法の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
一昨年に引き続き渡航できなかったため、進捗状況としてはかなり遅れている。一方、2022年4月現在では、海外渡航に関するめどはたっていないものの、状況次第では渡航できる可能性が残されている。国内で検討しておくべき準備は進んでいることから、遅れてはいるものの渡航すればデータ取得できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
渡航することができなかった2年間により、国内でできる検討は全て実施することができた。現在でも受け入れ先であるパンノニア大学の客員教授を引き受けており、オンラインミーティング等も担当している。また、受け入れ教員であるDr.Kovacsとも連絡を取っており、2021年には国際共著論文も発表することができた。そのため、コロナウイルスとウクライナの状況を見ると共に、日本政府や大学の方針に従い渡航するタイミングを見極める予定である。 一方、現状を考えると渡航しなくても日本国内で取得できるデータにより研究をまとめることも考えなくてはならない。日本政府は将来的に福島第一原子力発電所で発生するトリチウムを含む処理水を海洋へ放出することを決定しており、それらの影響のないバックグラウンド環境におけるトリチウム観測を実施する期間は限られているといえる。また、バックグラウンド濃度は、東欧内陸地域に比べてかなり低く、検出するためには採取試料量を大きくする、もしくは計測時間を長くするなどする必要もある。それらの手法改良も実施しながら日本で同様の観測を行い、天然起源トリチウムを追跡するためのマルチアイソトープ手法の確立を目指す予定である。
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