研究課題/領域番号 |
17KK0025
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 守恵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10402752)
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研究期間 (年度) |
2017 – 2019
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キーワード | アフリカ / 技術 / ジェンダー / 生業 / 比較 / ものつくり / 実践 / 身体 |
研究実績の概要 |
この共同研究は、現代アフリカにおけるジェンダーの違いに留意しながら、急速な市場経済化や観光開発に晒されているエチオピア西南部で多層的な社会状況を生きる人びとが「もの」を創りだす実践を扱う。初年度(平成29年度)は、この共同研究の基盤となった研究課題(基盤C:現代アフリカにおける土器をめぐる創造的実践知の生成とマテリアリティの変成)の最終年度にもあたり、これまでの研究成果のひとつとして、エチオピア西南部に暮らすアリ女性職人の土器つくりをめぐるマテリアリティ(人とモノとの関係性の様態)について論文発表すると同時に、共同研究として取り組む比較の視点について検討した。 また、来年度以降に予定している共同研究を実施するために、アジスアベバ大学(エチオピア)に勤務する共同研究者と電子メールを介して、共同調査における比較の視点や内容、なかでもジェンダーを基盤にした実践的な知の内実について議論をすすめた。これに加えて、客員研究員として招へいされたライデン大学アフリカ研究センターにおいて、代表者がこの共同研究における中核的な概念のひとつととらえている「創造的な営み(=創造的実践)」をより現代的な文脈のなかで理解するために文献調査をおこなった。 さらに、同研究センターでは、エチオピア南西部に分布するオモ系言語の専門家であるAzeb Amha博士と、主に言語学的な観点からジェンダーを基盤とした知の生成について議論を重ね、言語学的な視点にたった比較研究の可能性について検討した。今後見込まれる国際的な研究上の連携の可能性を模索するために、同研究センターにおいて、エチオピア西南部で人類学的な調査を続けてきたJohn Abbink教授とエチオピアの政治的な状況とコミュニティの変容について意見交換をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、客員研究員としてライデン大学アフリカ研究センターに招へいされた際に、この共同研究の中核的な着目点である創造的な営み(=創造的実践)として、現代アフリカに暮らす人びとがものを「つかう」という行為に注目して文献調査を実施した。この研究センターの図書室では、アフリカの国々の研究機関や個々の研究者が発表してきた研究成果を積極的に収集しており、それらの成果を集中的に収集し、アフリカに暮らす人びとの視点によりそった立場からの成果も参照することができた。 共同研究者(Getaneh Mehari博士、Mamo Hebo博士、Samuel Tafera博士)とは、電子メールを介して共同調査について議論をすすめた。この共同研究の基盤となった研究課題(基盤C)では、土器女性職人と利用者との対面的な関係と、その関係性を契機にしてうみだされる創造性や革新的な技術について着目してきたが、そのような視点や特色が、Getaneh博士が調査対象としている女性の日常実践をめぐる多元的な法実践やMamo博士が取り組んできたコミュニティの女性を中心にしたあらたな生業活動の取り組み、さらにはSamuel博士が着目したコミュニティの女性による外部からの新技術の受容に対して、どの程度共約の可能性があるか検討した。 この共同研究の基盤となった研究課題(基盤C)では、身体技法に注目して実践的な知を検討してきたが、ライデン大学アフリカ研究センターのAzeb Amha博士との議論を介して、言語的なアプローチと身体的な実践のふたつのアプローチに留意ながら比較研究をすすめることの可能性についても検討した。また、John Abbink教授とは、2018年3月に選出されたエチオピアの新首相とそれにともなう政治体制の変化およびエチオピア西南部の政治・経済的な状況との関連性を視野にいれる必要性について意見交換をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者およびエチオピア人の共同研究者が、学務や教務に従事する程度が低くなる夏期を中心に相互訪問や共同調査を実施する。これにくわえて、個々の研究者が個別に自身の調査地を訪れて研究をすすめる。代表者がエチオピアに滞在中は、小規模なセミナーや打ち合わせ等を介して調査データや成果を共有する。代表者が日本にいるときは、共同研究者と電子メールなどを介して成果共有や意見交換をし、共著論文としての発表準備をおこなう。 国内で開催される日本アフリカ学会学術大会に参加し、この共同研究の課題の中心的な概念である「もの」をめぐるマテリアリティとジェンダーを基盤にした創造的実践知との関連性や、比較研究の可能性について意見交換や関連する課題について情報共有をおこなう。2018年10月に開催される国際エチオピア学会では、エチオピアにおけるジェンダーを基盤にした創造的実践知について、エチオピア人研究者や学会に参加する欧米の研究者と学術的な交流をおこない、この研究課題の特色であるジェンダーを基盤にした創造的実践知や身体的な実践に注目した研究アプローチと結びつくような、今後の国際的な研究の連携の可能性を模索する。 これに加え、共同研究者以外のアジスアベバ大学に所属する研究者とこの研究課題について意見交換をおこなう。とくに、Aynalem M博士をはじめとしたアジスアベバ大学ジェンダー研究所の研究者と、今後の研究連携をおこなう可能性をふくめて研究動向や情報共有をおこなう。ジェンダー研究に取り組むうえで、学際的にジェンダーに関する事象をとらえることは不可欠である。そのような観点からも、異分野の研究者との学術交流につとめる。アフリカでは生業活動において性分業が明確であるが、現代的な文脈における生業活動の性分業の変化に注目し、アフリカ的な発展につながる社会の潜在力として、それらを支える考え方や実践を再定位する。
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