本研究は、宗教空間がどのように生成され、確保されているのかを、香港のカトリック教会堂を具体的対象として明らかにすることである。 香港のカトリック教会堂は、社会的(人口変動)、政治的(政教関係、政府土地政策、教育福祉政策)、経済的要因(地価変動)によって変遷したという仮説のもと、調査研究を開始した。まず、教会堂の悉皆調査を開始し、二次資料を収集、個別の教会堂の名前や所在地、併設用途、所有者、礼拝空間の有無を確認し、リスト化した。2018年8月から香港への長期渡航を開始し、現地調査、アーカイブ調査、インタビュー調査をおこなった。その結果、360件以上の教会堂が存在したことを確認した。教会堂は、複合用途、所有者、礼拝専用空間の有無の違いによって形態が規定されていることを明らかにした。これらの指標にしたがい、類型を分類した。香港が植民地となった1841年から1944年の第二次世界大戦期にかけては、布教初期でもあり、宣教師がミッション・ステイションという臨時教会堂を多数開設した。これらは学校としても使われた。同時に、都市域に独立棟の恒久的教会堂を建設した。これらは宗教活動専用空間をもつものであった。この時期の教会堂の大半は、教会組織が所有者であった。政府は教会組織の教会堂建設に協力的であった。植民地の教育福祉活動実務を、教会組織がほとんど担ったためである。この独立棟教会堂は、戦後、人口急増を受け、また政府の土地政策と教育政策転換を受け、建設されなくなった。 こうした分析結果を、論文にしてとりまとめ、日本建築学会技術報告集、日本建築学会計画系論文集に計3本投稿し、採択された。また本研究の内容を、九州大学出版会から2019年に学術図書として出版することが決定し、執筆をおこなった。
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