研究課題/領域番号 |
17KK0029
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (90374701)
|
研究期間 (年度) |
2018 – 2020
|
キーワード | コーカサス / ユーラシア / 境域 / ミドルグラウンド / ミドルマン / 武人 / 通訳 / オリエント |
研究実績の概要 |
研究一年目は、海外での調査に向けて、先行研究について把握することと海外研究期間との調整に費やした。すなわちイリア大学(ジョージア)受入教員のサニキゼ博士およびプリストン大学(米国)受入教員のレイノルズ博士を通じて、受入の条件などについて細かなやりとりを現地あるいはメール等で重ねながら研究の方向性についての議論も重ねた。 研究成果としては主研究の主対象であるエニコロピアン一族について、英文で論文を執筆した。収録された論文集はブリル社から刊行された『ペルシア世界』であり、主研究を発展させるべく国際的な活動を図る本研究についても、直接の研究成果であり、かつ本研究の紹介としても海外に対するイントロダクションとなる。また、日本におけるコーカサス研究を特に近世から近現代についてまとめた『中央ユーラシア研究入門』収録の解説論考「コーカサス」では、狭義の歴史学研究成果のみならず、現代中東政治史に詳しいサニキゼ博士やオスマン・ロシア帝国史に通じるレイノルズ博士との知見の共有により、地域史を広く考える論考の執筆が可能になった。 さらに、主研究及び共同研究の一環として計6回の短期の海外調査に赴いた。ポーランドやスロヴァキアなどいわゆる中東欧から、中華人民共和国内モンゴル自治区まで、遊牧世界と農耕民の世界の境域であるいわゆる農牧接壌地域の歴史的環境と生活形態に関する知見は、どうようの地域的特色を持つコーカサスを対象とする本課題発展のためのたしかな手掛かりを与えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、広域帝国における多言語を操るマイノリティ家系に関する具体的研究をまとめるなど、具体的な成果を挙げることが出来た。これは、本研究で注目するトランスボーダーヒストリーのみならず、ロシアとイランの間に存在するコーカサス空間の境としての地域特性を考える上で学問的貢献を果たしたと考える。すなわち、ジョージア/グルジアにおけるアルメニア人という複雑な問題へアプローチすることで、諸帝国のミドルグラウンドとしてのコーカサス地域の特性の一端を明らかにした。加えて、本課題でもっとも注目する「人の移動」の観点から次年度以降の海外研究期間滞在時の研究発展の準備と位置づけることが可能である。 また、コーカサス地域史についても近代を中心に邦文でまとめることで、本研究推進のために必要な空間的広がりと重層的な社会理解ための基礎作業を着実に進めることが出来た。海外研究機関での調査研究についても、現地とのやりとりや短期の滞在の中で、意見交換に努めるとともに、今後の協力研究進展のための話し合いを重ねることが出来た。文献の収集等の作業も順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究2年目は海外研究機関における在外研究および海外の研究者との研究協力関係の深化が課題となる。 コーカサス現地においては、ペルシア語やロシア語といったいわば「帝国言語」で記された史料に加えて、現地のジョージア/グルジア語やアルメニア語で記された史料の収集と解析に努める必要がある。イリア大学東洋学研究所のサニキゼ所長やベラゼ博士との協力関係により、こうした難解な史料群解析にも積極的に取り組んでいく。また、現地での歴史研究の成果の吸収も重要な課題である。 アメリカにおいては、帝国史やミドルマン、また黒海史やユーラシア研究など、地域を跨ぐ新たなユーラシア史について理解を深めていく。新しい研究概念の吸収と深化に努めることで、境域地域としてのコーカサスの地域特性を明らかにする作業を本格化させる。プリンストン大学をはじめ、アメリカ他海外の研究機関とのネットワーク構築の作業も進めていく。 加えて、邦文と英文による研究成果のとりまとめや発表などの作業も逐一進めていく必要がある。
|