研究最終年度は、コロナ禍で中断していたコーカサス現地での研究滞在と研究報告の機会を久しぶりに得ることができた。17世紀ジョージア/グルジア豪族社会の大立て者ギオルギ・サアカゼの弟カイホスロに関すルペルシア語史料の記述について報告を行った。また、日本においても、ギリシア・アトスまで拡がっていた近世ジョージア/グルジア宗教ネットワークについて報告を行った。いずれも現地の若手研究者との共同報告であり、本研究の柱の一つである研究ネットワークの拡大の直接の成果である。また、ドイツで出版された論文集にサファヴィー帝国宮廷で活動したジョージア/グルジア系官人の持っていた複雑なアイデンティティについて、英文論文を寄稿した。この中で境域出身者が出身地の政治状況を帝国中枢に持ち込むに際して、複雑な照射がみられることを指摘した。また、コーカサス現地とアメリカなど欧米の研究をつなぐ本研究の成果として、コーカサスおよび環黒海境域の地政学的状況について考察を加えて日本語論文を発表した。さらに、ジョージア/グルジアの研究機関の求めに応じて日本とジョージア/グルジア国の外交30周年記念の国際シンポジウムにもオンラインで参加して英語で報告を行った。コロナ禍による困難に遭遇しながらも、2020年までの海外での長期滞在の成果をその後の研究にもつなげて当初の目的通り、コーカサス史の持つ独特の境域環境への考察と、歴史研究者のネットワーク構築について、ユニークな成果を得ることができたと考えている。
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