研究課題/領域番号 |
17KK0030
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
迫 桂 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (60548262)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2021
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キーワード | ageing / illness / care / children's literature / picturebooks / narrative / Japan / British children's books |
研究実績の概要 |
本研究課題は大きく二つの要素から成る。①一つは、題目にある絵本の比較研究である。これは、基課題で計画された内容の一部を、より大きく発展させることを目指すものである。②もう一つは、同テーマ(ageing and illness)をより広い文脈(地域、ジャンル、メディア)で探求するものである。研究連携関係構築も含め、基課題全体の発展を促す効果を狙うものである。 ②共同研究者であるSarah Falcus氏(University of Huddersfield)と共催した国際シンポジウムを土台とした論文集の企画を進めた。出版契約を得た後、出版までのスケジュールを組み、編集作業を進めた。 ①昨年度に日本の現代児童絵本を収集した。今年度は、これらの研究を行った。まず、絵本の歴史文化的文脈を理解するために、日本の児童文学・絵本史、さらに、戦後日本の介護制度・文化に関する文献を収集・調査した。これらの文脈を踏まえたうえで、絵本の分析を進めた。その結果、血縁をもとにした家族介護の限界が指摘される社会状況にも関わらず、多くの絵本において、従来的なジェンダー化された家族介護が、疑問視されることなく描かれていることが分かった。また、固定化された家族介護関係において、人間主体のvulnerability, embodiment, autonomyが、西洋文化圏とは異なる描かれ方をしていることも明らかになった。成果を国際学会で報告し、さらに論文にまとめた。 イギリスの子供向け絵本の収集を開始した。イギリスの絵本に特化したレファレンスブックがないため、アメリカで出版されたレファレンスブックを参考にした。そこからイギリスの絵本を抽出するにあたり、「イギリス」をどう定義するかという問題を考える必要が生じ、最終的に、収集作業に多くの時間がかかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の感染拡大の影響を受けた。研究代表者・共同研究者とも、教育活動のオンライン化に時間を要し、研究遂行の時間が減少した。渡航が不可能だったため、対面で絵本の共同分析をすることが難しく、分析作業の効率性に影響があった。絵本収集・配送にも遅れが出た。 論文集の企画は、多くの研究者が関係しているため、特にCOVID-19の影響が大きかった。寄稿者のほとんどが欧米在住で、論文の提出や改訂作業が遅れた。そのため、全体の編集作業が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
論文集は出版社と相談し、全体の最終原稿提出の締切延長が認められた。新しい締切に間に合うよう重点的に進める予定である。 イギリスの絵本研究は本格的に始めたばかりである。遅れを取り戻すべく、今後集中的に進めていきたい。日本の絵本でジェンダーの影響が強く見られたため、まずはジェンダーに注目して分析を進める計画である。ある程度研究が進んだところで、昨年度の日本絵本の研究成果と合わせ、比較歴史的視点を取り入れて、二国の絵本における老い、病い、ケアについて考察をする予定である。
2020年度に海外の共同研究者を日本に招聘し、学会大会の一環としてシンポジウムを行う予定であったが、海外渡航が不可となり延期となった。延期の結果、パネリストの予定調整が難航し、最終的に企画をキャンセルすることになった。COVID-19の感染状況が落ち着くのを待ち、研究成果を広く公開し、かつ、研究交流を促す場を新たに探したい。
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